『プルミエール 私たちの出産』とどうしようもない腹立たしさ

 今更の話だが、なぜ超映画批評がオタク系の個人ニュースサイトやブログでもてはやされるのだろう。あの原因がよく分からない。まあ、その辺の話は破壊屋さんでやられているので置いといて、これはひどいな、と思った映画とその評について。
プルミエール 私たちの出産』というドキュメンタリー映画がある。これは各国の出産について追った映画だ。ナチュラルバース(自然分娩)をかなり肯定的に描いた映画として話題になっている。私はこれを見て、(しかも出産を控えた人が見ている状況を見て)、影響を受ける人がいたらまずいな、と思った。
 まず、この映画に対する超映画批評の記事を見ていただきたい。
http://movie.maeda-y.com/movie/01094.htm
 えらく高評価である。もしかすると出産に対して知識も関心も薄く、しかも医学に対する認識が偏っているとこういう感想を持つのかもしれない。しかし多少なりとも医療問題やトンデモ、ニセ科学問題の記事を追っている身としては、この評には頭が痛くなってくる。はてなでトンデモ関係のトピックを追っている人なら、以下の部分にひっかかるだろう。

この産院は愛知県にある吉村医院といって、自然なお産を考えている人なら誰でも知っている。妊婦は併設する日本家屋で出産まで昔ながらの家事労働を行い、会陰切開や陣痛促進剤といった医療介入を一切行わず自然分娩する。その成功率は、多くの専門医が驚愕するほどだ。

 吉村医院と言えばid:NATROMさんのあのエントリを思い出さずにはいられない。
信仰と狂気〜吉村医院での幸せなお産
 コメント欄やトラックバックも見ることをお勧めする。このエントリを見て、恐怖とも怒りともつかない不快な感情を抱いたものだ。自然分娩という理想にこだわる人々が、母子への負担も医療従事者の努力も省みないような実態は何ともやりきれない。
 超映画批評のこの映画の評を見てその時の気持ちがまた蘇った。

『プルミエール 私たちの出産』を、私は出産経験のある女性、または男性(連れ合いが出産したという意味)にオススメする。とくに、日本の病院出産こそ"最高で普通のもの"だと疑わぬ人たちに。

 NATROMさんのエントリや関連した他のブログのエントリを、私は出産経験のない女性、または男性(連れ合いが未出産という意味)にオススメする。とくに、自然分娩こそ"最高で普通のもの"だと疑わぬ人たちに。
 今後、自然分娩の理想の被害者を増やさないために。
(5/9追記)
 宣伝やレビューサイトを見た人は分かると思うが、この映画の内容は、各国の自然(自然・伝統を人間に都合の良いものとして捉える妄想が根本にある)に基づいた出産の事例を紹介したものである。で、当然のごとく衛生だとか安全だとかいうものからはかけ離れた出産が多い。自然という点もかなりおかしく、イルカの前で出産とかかなり身勝手な解釈による自然の利用が出ている(イルカの超音波が胎児に良いとか疑似科学ネタも)。そして一番問題なのは、安全性が怪しいのに安全であるかのような説明がなされていることだ。
 ニューエイジホメオパシーマクロビオティックでオーガニックな人々向け。作り手とこの映画を見て感動するような観客は、かなり現代医療にも出産にも偏った認識を持っているのは間違いない。はっきり言ってこの映画の内容は日本の医療に対する攻撃になりかねない。できれば医療関係者はこの映画を見てもっと批判の声を上げてほしい。この映画のせいで自然分娩のリスクではなく安心感が広まり、対照的に真っ当な医療への批判が出てきているというのはおかしい。