「戦争は、女性に新しい自由と新しい役割をもたらし、それは危険も増大させた」
そんな一文で始まる女性向け護身術の記事が1942年のNew York Times Magazineに掲載された。
第二次大戦下、女性が軍需工場の労働従事等で家から離れる機会が増えた状況を指していると思われる。
思うに、軍隊格闘技や武術が本来の技法をアレンジした一般女性向け護身術を教えるようになるのは、女性の社会進出とも関係するのではないだろうか。
この記事を書いたのはW.E.フェアバーン大佐。
近代軍隊格闘技、近接戦闘術の指導者として著名な人物だ
今回は、このフェアバーンによる護身術の記事を紹介する。
元記事でフェアバーンが紹介した技法は次の6種類。
・Coat hold(服(上着)をつかまえられた時の対処)
・Wrist hold: one hand(手首を片手でつかまえられた時の対処)
・Wrist hold: two hand(手首を両手でつかまえられた時の対処)
・Umbrella defense(傘を使った防御)
・Waist hold(腰をつかまえられた時の対処)
・Matchbox defense(マッチ箱をつかった防御)
フェアバーンには講道館で学んだ経験があり、彼が教える技術には柔道・柔術が基本になっているものがある。
Coat Hold
例えばCoat holdの写真はこうなっている。
(左)肩をつかまれた場合、相手の右手を自分の右手でつかむ。左手で相手の右腕の肘をつかむ。
(右)相手の肘を時計回りにねじ上げ、右に回す。男の腕を押すことで膝をつかせる。
なお、この説明は元記事よりも若干文章を足しており、元記事はもっと分かりにくい。
何らかの格闘技・武道経験者には説明するより写真を見てもらったほうがいいだろう。
解説は補足のみにして、写真を紹介していく。
Wrist hold: two hand
これは写真では分かりにくい。
左はone handの時と同様、肘を曲げ、腕の内側を上向きにして相手の手(親指)を振り解く技法。
右はそれとは別の防御方法で、腕を引き、頭突きを相手のあごか顔面に当てる。
Matchbox defense
これは車に乗っている時に銃を突きつけられた状況を想定している。
マッチ箱を手に握って、相手のあごを下から打ち、最後の写真は逆の手で相手の銃を掴み取る動作を示している。
実際には打つ動作と銃を掴む動作が同時になるようにするという。
以上の護身術は、フェアバーンの軍隊格闘技の技法から抽出したものが中心になっている。
全く同じ技がフェアバーンによる軍隊格闘技の教本にみつけられる。
しかし腕力差を考慮してか、マッチ箱を使った防御など軍隊格闘技の教本にはない女性向けの工夫も施されている。
フェアバーンによる女性向けの護身術はHand Off! Self Defense for Womenとして同年出版されており、本のほうがNew Yrok Times Magazineに掲載されたものより解説も技法の種類も豊富だ。
(New York Times Magazineの記事の写真はその本と同じ。このエントリではより見やすい本の写真のほうを使っている)
その本では「映画館で横から手を出された時の対処」「暗い夜道で声をかけられたらどの技法を使うか」といった項目もあり、同時代にどのような技法が護身術として考えられていたかの一端が分かる。