大学図書館の委託について、覚え書き (追記あり)

最近Webで大学図書館業務の委託についての話を読んだ*1
自分もそうした委託の業者で働いたことがあるし、交流もあるのでいくつか知っていることがある。
具体的には丸善紀伊国屋、TRC、ナカバヤシ埼玉福祉会の仕事は関わったか隣で見ているか、とにかく一部知っている。
業者側の話はあまり語られないので、ここで少し自分が知っていることをまとめておこう。
あまりまとまりが良くない上に経験に限度があるが、何かの参考になるかもしれない。

契約について

図書館業務を請負で行う会社は、おおむね図書館用品や書籍販売などいくつかの業務で図書館とつながりを持っている(そうではない会社もある)。
最も、図書館業務の営業と用品・書籍販売の営業は違う部署であることが普通だけど。
大学側は、つながりの深い業者とやり取りをするか、複数業者で競争入札を行う。
価格だけではなく、「大学とのつながり」が重視される例をいくつも見てきた。
逆につながりを作ろうとする業者が価格をとんでもなく下げたり、あるいは大学が新規業者の価格を懇意の業者に見せて価格を下げさせたりと色々な例がある。
このため、人件費で割に合わないことになる業者も出てくる。
また、複数年契約は極めて少ない。
多くの場合単年度契約で、同じ業者が何年続けても金額が上昇することは少ない。
こうしたことから同じ業者・同じ人員配置で委託が続いても業者側は給与を上げにくいという問題を抱えている。


業務委託化によって大学が得られる補助金があったため、ある時期一挙に委託は増えた(委託が進んだのは人件費削減だけが理由ではないのだ)。
しばらくこの傾向は続いたが、恐らく今後はより安価な会社のシェアが伸びるのではないだろうか。
既存のいくつかの会社は補助金申請のノウハウを持っており、それを売りにしていたのだが、その手法が通用しなくなっているためだ。
当面は大学のコストカット志向に合わせて人件費を抑えられる会社が有利になると予想する。
裏金とか、もっと生臭い話も当の契約に関わった人間から聞いたけど、さすがにその辺の話は詳しく書けない。


委託について、契約に関わるのが大学側も図書館委託業者側も図書館業務を知らない人間であることもある。
例えば大学側は総務人事部、業者側は図書館業務経験のない営業であるといったように。
また、仕様書がないのに契約が結ばれるなど、想像を超えた例も実在する。
このため図書館業務の請負では大学にとっても業者にとっても「そんなはずではなかった」と言うことがよくある。
そういう世界なのである。

人員のスキル

図書館委託業者は、人員を一定数抱えているが、自在に動かせるわけではなく、契約が決まるたびに募集を行うのが普通だ。
そして優れた人材が集まるかどうかは、運と地理的状況と給与、労働時間で決まる。
こうして集まる人材には、図書館学を学ぶため海外に留学していた人から、「社会人として勤まるレベルよりだいぶ下」までいる。
厄介なことに十分な研修を行わない会社もあり、そして業務引継ぎがしっかり行われないこともある。
「委託にするとその図書館のスキルが落ちる」というのは一定の割合で事実だろう。
ただし、委託前の図書館員のスキルが低い場合は委託したほうが良くなることもある。


委託図書館員のスキルの維持・継承・向上を促すのは図書館委託業者ではなく、むしろ大学の側である。
仕様書や業務運営で高いレベルを求めていれば(そしてそれに見合った給与を出せる金額で契約していれば)、一定以上のスキルを保つことができる。
もともと図書館にいる正規・非正規職員のスキルや意識も強く影響する。
ただし、委託はコストカット優先であることが多いので、そうそううまくはいかない。


また、図書館大会のような交流・研究・研修の場で委託業者の立場から参加している例は少ない(委託業者に雇われている個人の参加はあるが)。
今や公共図書館大学図書館も委託業者無しでは業務が立ち行かないというのに、図書館団体が委託に否定的だったためか、業者の発言の場は少ない。
業者自体も積極的ではないせいもある。
IAALやその協賛会社だってそういった場への参加や発言をした様子はないし。

複数の業者、契約形態の混在の問題

図書館業務の委託には一部業務だけの部分委託と図書館業務全般を委託する全面委託がある。
部分委託の場合、いくつかの業務を複数の業者に分けていることがある。
例えばカウンターはM社、受入業務はT社、事務は派遣といった具合に。
極端な例では、学生バイト、派遣会社、正規職員、契約職員、委託業者と4〜5種類の雇用形態が並存していることもある。
そして往々にして契約形態の違いは、仕事の溝を作る。
個々の業務の連携がうまく行っていない例をこれまでさんざん見てきた。
ミーティングや連絡ノート、グループウェアなど連絡手段があってもなかなかうまくいかない。


逆に、正規職員が委託(請負)の図書館員に指示を出してしまっている例も多い。
もちろん請負では業務指示は大学や図書館ではなく請け負っている業者が出さなければならないのだが…。
遡及入力や蔵書点検といった一部の短期的な請負や全面委託ではこうした問題は発生しにくいが、大学が雇っている図書館員と請負の図書館員が混在している図書館にはこの問題が必ずある。
ほとんどの部分委託でこうした問題があり、労基署の調査がはいった業者もいる。
請負方式で図書館業務を行っている業者でこの問題を全面的に解決した業者は存在しないだろう。


(2010-03-06追記)
Twitterで言及があったのでレスします。
Twitterのアカウントがない上に当面始めるつもりがないもので、こちらで回答。


ight(ight_)さんの発言より

@rieron あ、ありがとうございます。そうですかー…machida77さん、トゥギャッターにはてなブックマークからのコメントをつけてくださっていたので、たぶん関連で記事を書いて下さったんだなと思ったのです。それで、とても参考になるし、(1/2)
http://twitter.com/ight_/status/10034623510

@rieron もしよかったらトゥギャッターのコメント欄でmachida77さんの記事を紹介させていただきたいなと思ったのですが…machida77さんの日記にはコメントを書き込めないようだったので、もしtwitterアカウントがあれば了承を得られるかなと思いまして…。(2/2)
http://twitter.com/ight_/status/10034657546

わざわざどうも。ここの内容について、紹介や引用は全く問題ありません。