かつて、私は複数の管理栄養士養成課程のある大学の図書館で委託として働いたことがある。普通の大学図書館とは少し異なるところがあり、そこから管理栄養士養成課程と大学図書館のかかわりについて思うところがあるので、書いてみよう。
管理栄養士のための蔵書
一般に、管理栄養士のテキストとして出版されている本というのは、ほとんど決まっている。これは、図書館情報学のテキストが特定の出版社のシリーズものばかりというのと近い。しかし、実際には講義で指定される参考図書や教科書はもっと幅広い。これは、いくつかの医学分野の本や、社会、教育に関する領域は栄養士向けではない本が多く出版されているからだ。
また、調理実習が多いため一般向けの料理本もかなり所蔵している。もちろん特定の疾患を抱えた人向けの料理の本もある。料理本については、かなり公共図書館に近いところがある。料理の本は結構古いものでも学生に利用される。
逆に、娯楽、教養目的の本は多くはない。利用もされないし、経験と伝聞では、管理栄養士養成を主とする学部図書館・大学図書館でその辺の蔵書を充実させるのは予算・施設に余裕のあるところだ。
インチキ健康法、民間療法と管理栄養士
驚いたのはインチキ健康法、インチキ栄養学、フードファディズム、ニセ科学といった、信頼できない内容の本が結構な割合で図書館にあったことだ。デマまじりの過剰な農薬、食品添加物、GM作物否定の本は珍しくない。EM、ホメオパシー、マクロビといったメジャーどころはもちろんあったし、ある図書館にはニューウェイズやアムウェイの本まであった。
こうした本は、まっとうな科学、栄養学や医学の反面教師として所蔵されているのではない。また、情報の多様性のためにあるのでもない。図書館職員や教員にとって、まともな本とあまり区別がついていないのである。
こうした蔵書は、次のような経緯で図書館にやってくる。
(1)図書館職員が選書、購入する
職員がよく選書の材料に使うウィークリー出版情報にはその種の本がよく掲載されており、警戒心や知識がない職員はかなり信頼性の低い本でも買う。
(2)教員が選定する
栄養学の教員は、アカデミックな研究にはあまり熱心ではないことが多く、まっとうな栄養学・医学と、科学的検証を経ていない信頼性の低い健康法との区別がついていない人もいる。この辺の事情は大学によって様々だが、とにかく教員が変な健康法や栄養学にハマっていると図書館にもそれは反映される。
(3)寄贈
図書館というのは、公共図書館であっても大学図書館であっても寄贈される本の問題が必ずある。お偉いさんとコネのある人が「自分が考えた健康法」の本を贈ってくることもあるし、大学と何のつながりがなくともその種の本の著者が寄贈することもある。
これらの要因が重なると、ニセ科学本が蔵書の結構な割合を占めているという事態も発生する。私が知っている例では「食品、栄養」の書架にある蔵書の7%程度がニセ科学本という図書館があった(より詳細に見ていくと、テーマ次第では一割以上がニセ科学本になる)。おかげで当時、私はニセ科学ネタの勉強をすることができたが、果たしてそれで将来の管理栄養士になる学生は大丈夫なのかと心配になったものだ。その事で職員に選書について意見を言ったことはあるが、その種の意見を聞くような職員ではなかった。
その後の伝聞でも、このような専門領域と関わるニセ科学を抱え込んだ栄養学の教員や大学図書館の例は結構あるようだ。近年こういったニセ科学や食品、栄養に関するインチキ、デマを指摘するカウンターになるような本が増えたため、多少状況は改善されたと思うが、まだまだ注意は必要だ。いまだに名のある大学でも食品添加物、農薬、GM作物忌避といった領域の本の購入は多く、今後はそれに放射能と健康・食品に関する信頼できない本が加わるだろう。既にその類の本を受け入れている図書館もあり、今後ますます増えるのではないかと予想できる。