現代戦の武器としての斧

米軍では、近接戦闘武器としての斧がよく使われている。ここでも2009年に戦場にかける斧 - 火薬と鋼というエントリで簡単に紹介した。その後、こうした斧はCall of Duty: Black Opsといったゲームにも登場するようになっている。
日本ではほとんど知られていないこの件について、もう少し詳しくかいてみよう。

タクティカル・トマホーク、タクティカル・アックス

2009年のエントリで書いたように、2000年代になってから米軍では斧―それもトマホークと呼ばれる小型で細身の斧が使われるようになった。トマホークはアメリカの伝統的な斧で、ベトナム戦争でも使われた。近年になって新しい素材やデザインのトマホークがアフガニスタンイラクで使われている。近年の軍用斧は、小型のものはタクティカル・トマホーク、大型のものはタクティカル・アックスと呼ばれているが、あまり厳密な線引きはない。
こういった実戦で使われている斧の大きさや形というのは、恐らく一般の人が想像する斧とは違う。
代表的な軍用のタクティカル・トマホークの例であるAmerican Tomahawk CompanyのVTACの動画がある。
LaGana Vietnam Tactical Tomahawk(VTAC)は米軍にも納入されているトマホークだ。

見ての通り、刃の長さ(高さ)は短い。私も同じサイズの練習用のトマホークを持っているが、刃の長さは私の指3本分の幅ほどしかない。
これより大きなトマホークで、やはり人気のあるRMJ Tacticalのトマホークの動画も紹介する。

一般にイメージされている斧よりも小ぶりであることが分かると思う。最近は多くのメーカー、ファクトリーが作るようになったため、大ぶりのものもあるが、木を切る専用の斧とはちょっと違うデザインになっているものが多い。
タクティカルトマホーク、タクティカルアックスの多くは武器としての刃があり、その反対側には鋭いピック(またはハンマー)がついている。柄も木を切る斧よりは細いものが多い。

特性と技術

こうした斧の最大の特徴は破壊力があること、そしてナイフよりも遠い間合いを攻撃できることである。
トマホークの攻撃力はケブラー製のヘルメットを貫通することができるほどだ。ナイフで同じことをすると切っ先が滑りやすく難しい。また、柄の長さを活かしたリーチのある攻撃ができるほか、投擲することもできる(多用する技ではないが)。こうした特長により、ナイフ以上拳銃未満の距離を埋める武器として活用できる。
また、斧は、ナイフほど汎用性がない一方で、耐久性と破壊力があるため、ドアや窓、車のドアの破壊といった工具としての利用ができる。最初から柄がプライバー(バール)のようなデザインになっている製品もあり、ブリーチングツール、レスキューツールとしての用途から車両に積んでおくといった例もある。
しかし、斧のメリットはその重さや大きさ、頑丈さに裏づけされたものであり、同じことが欠点にもなっている。携行するには不便で、収納した状態から咄嗟に出すのも難しい。


斧を使う格闘術は、なかなか知る機会がない。近代以降のトマホークの技術の多くは軍用を想定しており、ナイフ格闘などと違って教えるところが少ない。最近の流行に合わせて伝統武術の中でも以前より教える例は増えたようだが、指導の映像や本は少ない。特に最近の米軍で訓練されている資料は限られている。限られた例からいくつか紹介しよう。
まずAmerican Tomahawk Companyで公開しているPeter LaGanaのデモンストレーション。
LaGanaはベトナム戦争の時代、米軍にトマホークを導入した人で、彼のデザインは現在のタクティカル・トマホークに生きている。しかし映像としては、技術的なものはほとんど残っていない。
http://www.americantomahawk.com/media/av/closing.wmv
http://www.americantomahawk.com/media/av/combatthrow.wmv
http://www.americantomahawk.com/media/av/targetchop.wmv
http://www.americantomahawk.com/media/av/transition.wmv
次はRAW Combatが公開している動画。相手に引っ掛けてコントロールする様子が分かる。

Libre Fightingによるデモンストレーション。刃のない部分も打撃として使っている。

Kuya Doug Marcaidaによるフィリピン武術ベースのトマホークとナイフのコンビネーション。



タクティカルトマホークやアックスの流行にあわせ、既存の格闘技術の転用や古い斧の技術の発掘が行われ、面白いことになっている。とは言えなかなか知る機会がないのが残念だ。


→現在のタクティカルトマホークのブランドと製品紹介あなたの人生を変える軍用斧を紹介(現代戦の武器としての斧・おまけ) - 火薬と鋼