以前、東大の研究施設でカラスの害への対策で警告文を出したという事が報じられた。
http://www.asahi.com/articles/ASK4L2VWFK4LUJUB003.html
まるでおまじないのようだが実際の効果はあったという。
どういうことかというと次のように説明されている。
竹田研究員によると、警告文を目にした職員や学生がカラスに視線を向けたり指さしたりすることで警戒して寄りつかなくなる、ということらしい。「不思議に思って、みんな空を見るでしょ」
これで思い出したが、鳥獣虫害への対策で人語の立て札を設置するという例が江戸時代の随筆にある。
昔読んだ時は単なる言い伝えや迷信の類だと思っていたが、ひょっとすると周囲の人間の行動の変化が影響した実例もあったのかもしれない。
似たような話をいくつも読んだ記憶があるが、手持ちの本で確認できた2つの話を引用してみよう。
まず一つは松浦静山『甲子夜話』巻11より(wikipedia:甲子夜話)
予が封内にて、小麦畑に兎入れば実を食ふの害あるゆへ、農夫これを避んとて、小き木札を畑の辺に立てて、厭勝(まじない)とす。その札に、狐のわざと兎が申すと書くことなり。然(しかる)ときは兎入ることなし。これは狐札を見て、我は穀を害せざるに、兎の虚名をおほせたり迚(とて)、狐怒り責るを、兎恐れて害を為さずと、農夫ども云伝へてすることなり。可咲(おかしき)ことなれど、この札を立れば兎の難は止むこと必定なるも不思議なることなり。
- 作者: 松浦静山,中村幸彦,中野三敏
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もう一つは根岸鎮衛『耳嚢』巻之八より(wikipedia:耳嚢)
木の葉・草の葉に油むし生じきたなげなるを、人々忌み嫌ふが常也。予が知れる石川氏の許へ、植木屋を呼(よび)て植替へなどせし時、「彼(かの)油むしの除方(のぞきかた)も有(ある)べし」と尋(たずね)しに、「いと安き事也。前銭(まえせん)十六文と認(したため)建札(たてふだ)すれば、油むしの愁なし」と言いし故、滑稽にて申(もうす)や。かゝる事あるべくもなし」と笑しに、「左思召(さおぼしめさ)ば先試(まずこころみ)に札立給へ」と申故、召仕(めしつかう)ふ者などへ申付(もうしつけ)、可笑(おかしき)事ながら札建しに、絶へて油むしの愁ひなし。物見・芝居など、銭を出さず見物するを油むしと諺(ことわざ)に言(いえ)ると(も)、何ぞ子細やあらんと語りぬ。
- 作者: 根岸鎮衛,長谷川強
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どちらの例も人が書いた言葉を獣や虫が理解して来なくなるかのような話でただの迷信・創作かもしれないが、人間の行動など別の要因が影響した話なのかもしれない。