丸善丸の内本店「へびをかぶったお姫様~奈良絵本・絵巻の中の異類・異形~」

プレスリリース(PDF)

丸善丸の内本店の慶應義塾図書館貴重書展示会「へびをかぶったお姫様~奈良絵本・絵巻の中の異類・異形~」に行ってきた。
慶應義塾大学図書館所蔵の室町末期~江戸時代前期の彩色絵本である奈良絵本と絵巻の展覧会だ。
私はこの展示の監修をした石川透先生の講義を学部生時代に受講していて絵巻や奈良絵本についても学んだので内容に馴染みがある。
展示には「熊野の本地」「酒呑童子」「道成寺」「竹取物語」「浦島太郎」などの有名どころもある。
しかし今回の白眉は展示会のタイトル「へびをかぶったお姫さま」が登場する居初つな筆画「虫の歌合」だろう。


これらは襲われているわけでも呪いで頭にくっついているわけでもなく虫を擬人化した絵である。
虫(この時代は蛇も蛙も虫である)が和歌を詠み合う勝負をしている筋であるためこういう構図になっている。
今年開催されたサントリー美術館「虫めづる日本の人々」に出ていた「虫歌合絵巻」と同じ内容のものだ。

奈良絵本についての研究動向を反映しており、居初つなという女性が貞享・元禄年間に往来物を制作したほか、多くの奈良絵本・絵巻を制作していたことが明らかになっている。
また、『伽婢子』などの仮名草子で知られる浅井了意が奈良絵本・絵巻の筆耕をしていたことや、奈良絵本・絵巻の版元である絵草紙屋の活動の例として絵草紙屋小泉の制作についての展示もあった。
このように単に綺麗な奈良絵本・絵巻を並べただけではなく、その制作についても整理された展示会であり、内容豊富だった。

入場無料、図録1000円(買うとおまけで展示会のクリアファイルひとつがもらえる)というのも情報量の豊富さを考えると信じられない展示会で、図録の購入をお勧めしたい。