クライマー事件の概要(4)

"クライマー事件の概要(3) - 火薬と鋼"→
 事件の終結

連邦控訴裁判判決(第二審 第3巡回区判決)

 1992年3月23日、第3巡回区は判決を下した。

  • 伝統的パブリックフォーラムとの判断の否定:

 公共図書館は情報や思想を受け取る権利を行使する点で本質的な意義を持つが、伝統的パブリックフォーラムとするのは無理がある。静かで平穏でなければならない。演説を始め伝統的な表現活動は許されない。公共図書館は制限的パブリックフォーラムである。

 モリスタウンには公共図書館の設置義務はなく、モリスタウンは「文字コミュニケーション」という特定の目的のために図書館を設置した。

  • 制限的パブリックフォーラムとして:

 特定の目的を意図した制限的パブリックフォーラムはあらゆる人々に公開する必要はない。図書館の目的や性格と一致した権利や制限的パブリックフォーラムと規定した行政の意図に沿う権利だけが許されるべきである。

  • 図書館規則について:

 5、7、9の各規則は、過度の広範性や曖昧さの点で問題はない。規則に差別的な意図はなく、恣意的なものではない。


 以上のような流れで第3巡回区は地裁判決を覆し、モリスタウン図書館の規則は制限的パブリックフォーラムを規制するものとして妥当で合憲であるとした。そして、残余の問題の解決と、図書館を支持する部分的な略式判決の登録のために地裁に差し戻した。この控訴判決は、第3巡回区の管轄であるニュージャージー、ペンシルヴァニア、デラウェア、ヴァージンアイランドで効力を持つ。しかし公共図書館をパブリックフォーラムと位置づけ、修正第1条との関係を明示した唯一の控訴裁判決として重視されている。
 この判決内容は、本来のモリスタウン図書館側の意図と必ずしも一致していない。なぜなら控訴する際、モリスタウン図書館はサローキン判決の全てにおいて―公共図書館をパブリックフォーラムとして位置づけることや公共図書館で情報を受け取るという修正第1条上の権利すら―疑問を呈していたからである。だが、こうした公共図書館の位置づけは基本的に控訴裁判決にも受け継がれている。とは言え結果を見れば図書館側の主張が通り、勝利したと言える。判決後モリスタウン図書館は通常より2時間早く閉館し、パーティを開いたという*1
 間もなくモリスタウン図書館側とクライマーの間で和解が成立し、この事件は終了となった。

その後

 モリスタウン図書館は、多額の法廷費用・和解金を払うことによって「数年間に渡って身動きがとれなく」*2なった。当然、この和解金の支払いは批判や議論を呼んだ。
 クライマーは、同時期の別の裁判を含めモリスタウンとモリスタウン図書館から合わせて23万ドルを手にした(図書館の分は8万ドル)。全ての事件が終わった後、しばらく彼の名がメディアを大きく騒がすことはなかった。クライマーの名が再び大きくメディアに現れたのは2005年。ニュージャージー州交通局、鉄道駅に対してホームレスの権利を主張する事件でのことだ。報道で彼は「He's back」と書かれ、忌避すべき人物として扱われる評価が記事にされている*3


 しかし、図書館界にとって重要だったのは判決内容であり、その後の個々の事跡が図書館関係の記事や書籍で取り沙汰されることはない。


 次回はこの裁判を巡るアメリ図書館界の反応を紹介する。
(2008-9-6 新聞記事に合わせてその後の内容を修正・追加)
→"クライマー事件の概要(5) - 火薬と鋼"

*1:Ronald Smothers. Homeless Library Wins in Homeless-Man Case. New York Times, March 25, 1992.

*2:Jones, Barbara M. Libraries, Access, and Intellectual Freedom : Developing Policies for Public and Academic Libraries. American Library Association, 1999, 266p.

*3:Ronald Smothers. Homeless Gadfly Returns, Warming Up. New York Times, January 21, 2005. 名前を聞いただけで恐ろしいということから映画「ユージュアルサスペクツ」のカイザー・ソゼにまで例えられている。