図書館がBL図書を置く問題について、参考になりそうな話(2)

図書館がBL図書を置く問題について、参考になりそうな話(1) - 火薬と鋼
そもそもボーイズラブを扱った小説を置いて害があるのだろうか。固定観念による判別は、アメリカで「ハリー・ポッターは有害な図書だ*1」として公共図書館学校図書館での利用制限や検閲を主張するキリスト教右派と同じようなものではないか?


日本で同性愛を扱った資料が大きく問題になったことはこれまで無かったが、アメリカでは有名な事例がある。それがこれから紹介するウィチタフォールズ市立図書館裁判である。

図書館と同性愛を扱った本〜ウィチタフォールズの事件〜

問題となったのは、アメリカで発行された『ヘザーには2人のお母さん』(原題Heather has two mommies, 1989)『お父さんのお友達』(原題Daddy's roommate, 1991)の2冊の絵本である。これは子ども(前者は3〜8歳、後者は2〜6歳対象)向けに同性愛の家族の姿を描いている。


1992年、ニューヨーク市教育委員会がまとめた第一学年の多文化カリキュラム用資料にこの2冊の絵本が含まれていたことをブルックリンの第20学区教育委員会が批判、カリキュラムが修正されることとなった。この動きに反応してその後この2冊の絵本を所蔵した公共図書館への苦情が相次ぐようになった。
1997年、ウィチタ・フォールズ市立図書館が所蔵するこの絵本に対して第一パプテスト教会牧師ジェフレス(Reverend Robert Jeffress)が批判、その後市議会にまで達する大論争を巻き起こした。結果、牧師が接触した市議会議員アルトマン(Wiliam Altman。第一パプテスト教会員)は、図書館の児童利用規制策を議会で誕生させたのだ。
アルトマンの提案した規制は、2冊の絵本に留まらず児童資料全般を規制するものだった。子ども用の資料に対して親だけが利用できるエリアを設け、一定数以上の利用者の請願に応じて児童資料を制限エリアに移動するというのである(反対意見の請願や元のエリアに戻す請願は存在しない)。この案は請願の人数の変更(100人→300人)、制限エリアを児童書コーナー内ではなく成人向けコーナーとすること、図書館長が市議会に請願の上訴を行えるようにするなどの修正がなされ*2、激しい議論の末1999年2月16日に決議された。この決議はアルトマン決議と呼ばれる。アルトマン決議は2冊の絵本に触れていないが、あの同性愛の絵本を対象とするべく生み出されたことは明白であった。


長くなりそうなので続きは次回に。
図書館がBL図書を置く問題について、参考になりそうな話(3) - 火薬と鋼
(2008-11-1 加筆修正)
(2008-11-2 誤字とリンク修正)

*1:魔法を扱っているから。アメリカでは性、暴力、麻薬、魔法、差別、進化論を扱った図書館資料はしばしば攻撃対象となる。

*2:成人部門へ移動する請願がなされた場合、図書館長は元の場所に戻す議題を議会に出すよう市支配人に求めることができる。市支配人が拒否すれば議題にもならない。図書館業務について市議会の決議まで介入することを決めた例は同市において前例がなく、この部分も議論を呼んだ。