図書館がBL図書を置く問題について、参考になりそうな話(2) - 火薬と鋼→
私個人の見解を表明しておきます。まず私は図書館資料の価値論と要求論では価値論に重きを置いていて、ボーイズラブ小説を大量に受け入れることには否定的です。しかしそれは収書方針や他の蔵書との兼ね合いで総合的に専門家(職員)が検討すべきことであり、ボーイズラブの図書だけを特定の嗜好・倫理観を元に排除、規制することにも反対します。まして受入済の資料を規制するのはかなり強い理由がなければやってはならないことです。ボーイズラブを不快に思う感覚は、読書の自由よりも優先されなければならないものだとは思いません。
サンド対ウィチタフォールズ市裁判
アルトマン決議採択後、市支配人は『ヘザーには2人のお母さん』と『お父さんのお友達』を成人部門に移動する請願が集められ、図書館長が市支配人に移動の是非を上訴しても市議会に持ち込まないことを表明していた。アルトマン決議は問題の2冊の絵本を対象として生まれたことは明白であり、市議会にその検討を突き帰すことは侮辱することになるというのが理由であった*1。
そして決議後、『ヘザーには2人のお母さん』と『お父さんのお友達』を成人部門に移動する請願が集まった。1999年7月14日、館長は2冊の絵本を成人部門に移動した。
この件に対してアメリカ人権協会は早くからアルトマン決議反対の意向を表明しており、法廷闘争を支援すると決定していた。そして請願による成人部門への絵本の移動を受けて同年7月16日にウィチタフォールズ市民19名が連邦地方裁判所に提訴した。これがSund v. City of Wichita Falls裁判である。事件についてはリンク先でほとんどの経緯と結果が説明されているので、大学生以上の英語力の持ち主はここを読むことをお勧めする。私の記事はかなり経緯を省略している。
原告はサンド(Emiley Sund)ら、ウィチタフォールズ市民。被告はウィチタフォールズ市、市議会、市支配人、市立図書館長である。証言内容は多くの情報を含んでいるが、ここでは省略、整理して紹介する。
原告側証言
原告側証言者は教師、同性愛の市民、退役軍人、同性愛家族への支援を行っている教会牧師であり、原告証人はテキサス大学図書館情報学大学院教授、ミッドウェスタン大学の多文化教育の教員であった。証言内容をまとめて整理すると以下のようになる。
・問題の絵本の内容は年齢層にふさわしいものである。
・成人部門への移動は、同性愛の家族の子どもの心理や児童への多文化教育に悪影響を及ぼす。
・成人部門への移動により子どもが絵本を利用する権利を奪う。
・成人部門に置くことは除去に等しい。
・アルトマン決議には成人部門に移す基準がなく、決議自体不十分で曖昧である。
被告側証言
被告側の証言者は図書館長リンダ・ヒューズ(Linda Hughes)、事件の発端であるパプテスト派の牧師ジェフレスとJ.ヒル(Janie Hill)、アルトマン決議に賛成した議員や市支配人であった。決議に関わる裏事情もここで明らかになった。
・問題の絵本を児童部門に置くことは公益に資する。成人部門に置くことは子どもの利用を遠ざける(図書館長)
・問題の絵本は宗教的、道徳的に問題があり、同性愛を子どもに植え付ける(ジェフレス、ヒル)
・市議会には図書館資料を検閲する義務がある(議員)
・図書館を全住人にとって快適な場にするために提案した(アルトマン)
・図書館運営について市民の声は図書館諮問委員会が代表しており、委員会は両書を児童部門に置くことで一致していた(市支配人)
この他にアルトマン決議に賛成した議員が問題の絵本を読んでいないとの証言、ジェフレスが論争当初からアルトマンと接触していたとの証言もなされた。
まだまだ裁判の話は続く。
→図書館がBL図書を置く問題について、参考になりそうな話(4) - 火薬と鋼
*1:じゃあ図書館長が請願について上訴する手続きの存在意義はどうなるんだ、という話になる。なお、5月の選挙でアルトマン決議が選挙争点となり、決議に反対の議員が選出されたという議会事情があるため、もし図書館長の上訴を市支配人が議会に持ち込んだ場合、上訴内容が認められる可能性が高かった。