図書館がBL図書を置く問題について、参考になりそうな話(4)

図書館がBL図書を置く問題について、参考になりそうな話(3) - 火薬と鋼
日本では同性愛はジョークとフィクションでしか重視されず、ボーイズラブ小説も同性愛者のためのものというわけではない。この点がアメリカの事例との大きな違いだが、図書館所蔵の同性愛を描いた資料を排除しようとする側の論理には共通点が見られる。それは、同性愛に対する否定的認識とそうした倫理観に基づく検閲の肯定である。

サンド対ウィチタフォールズ市裁判の判決

証言の後、J.バッチマイヤー(Jerry Buchmeyer)裁判官は暫定的差止命令として2冊の絵本を児童部門に戻す命令を発行し、市もそれを受け入れた。裁判官が示した理由は
(1)原告勝訴の可能性が高い。
(2)暫定的差止が認められなければ原告が回復不能な被害を受ける。
(3)原告への損害は暫定的差止が起こす損害よりも大きい。
というものである。合衆国憲法修正第一条は明確に情報を受け取る権利を規定しており、アルトマン決議はその規定に抵触するというのが法的根拠とされた*1
ウィチタフォールズ市は暫定差止命令は受け入れたものの、裁判官の見解は否定した。否定の理由は
(1)2冊の絵本は図書館から除去されていないので修正第一条に抵触しない。
(2)親は子どもの読書を制御する権利がある
(3)市は子どもの保護のため他に選択肢のない利益をもつ
というものである。また教育委員会学校図書館の特定の図書を除去することが認められた判例*2を援用して市の検閲の権利を主張した。
こうした市の主張は裁判官によって否定された。
(1)アルトマン決議の基準は曖昧で恣意的・差別的な運用の可能性がある。
(2)上訴手続きについて検討を経る十分な期間と手立てが講じられていない。
(3)市議会は不法に図書館資料に関する行政上の権限を300人の私人に委譲した。*3
以上の理由から最終的にアルトマン決議及び2冊の絵本の成人部門への移動は、情報を受け取るという原告の憲法上の権利に違反するとの判決を下した。2000年9月20日の判決後も当事者や関係者などから様々なかたちで賛否両論が出されたが、結局被告は上訴しないということでこの事件の幕を下ろした。


次回はアメリカ図書館協会の反応。これが重要。
図書館がBL図書を置く問題について、参考になりそうな話(5) - 火薬と鋼

*1:裁判ではいくつかの判例が示された。以前紹介したモリスタウンのクライマー事件もその一つ。こうした判例から公共図書館は修正第一条を守る役割を持つ制限的パブリックフォーラムとされ、政府が他に選択肢のない特別な利益を達成する場合にしか制限されないとみなされる。

*2:ただしこれは最高裁判決で覆った地裁判決であり、持ち出しても意味はない。バッチマイヤー裁判官にその点を批判された。

*3:アメリカの自治体は州法が明示していない限り自治体の行政・立法機能を私的団体に委譲できない。事件の舞台となったテキサス州では私的団体への自治体機能の委譲を全面的に禁じていた。