図書館がBL図書を置く問題について、参考になりそうな話(5)

図書館がBL図書を置く問題について、参考になりそうな話(4) - 火薬と鋼
今回で終了。

サンド対ウィチタフォールズ市裁判判決後のコメント

判決後、Times Record Newsに判決後の被告側・市関係者のコメントが掲載された*1。掲載されたコメントを若干整理して紹介する。

ヒューズ館長

一貫して問題となった絵本を児童部門に置くことの妥当性を主張し、アルトマン決議に反対していた館長は、判決で「2冊の絵本の不幸な検閲事件の真のヒロイン」と評された。館長は判決を評価し、「子どもの図書への検閲は親の責任としたが、それがあるべき姿である」とコメントした。

アルトマン市議会議員

問題となった決議を生み出したアルトマンは「決議は合憲で、図書の検閲ではなく、誰の利用も拒んでいない」とし、また判決で住民300人の署名で図書の状態を変えられるという点が非難されたことについて、ただ一人の図書館職員が児童部門に置くことを決めていると非難した。

ジェフリー牧師

事件の発端となったジェフリー牧師は、判決には驚かないとしながらも、裁判官はこの件を言論の自由の問題と間違えたのだとコメントした。「決議は図書館から本を除く、図書館外に出すといったことではなく、修正第一条に関するものではない」というのが牧師の主張である。

リューク市長

事件が起きた際の市長は一貫してアルトマン決議に反対していたが、後に選出された新市長リュークは2冊の絵本が図書館にあるべきかどうかはこの裁判ではなくウィチタフォールズ市民が住民投票で決めるべきだという判決に否定的なコメントをした。

アメリカ図書館協会の反応

アメリカ図書館協会ALAは、ウィチタフォールズ市の例のような図書館における同性愛者の利用、同性愛資料の所蔵・配架への圧力の高まりに対処する方針を打ち立てた。
まず、ALAは1993年1月に『「図書館の権利宣言」がジェンダー性的志向を含んでいることを確認する決議』と『同性愛者の権利と同性愛についての資料に関する決議』を採択した。従来の『図書館の権利宣言』であらゆる図書館利用者の情報や思想へのアクセスする権利を守ることを表明しているが、そこに同性愛、同性愛者も含まれてることを改めて強調したのである。
続いて同年6月、『図書館資料、サービス、プログラムの憲法上の保護に関する決議』を採択した。決議理由は以下のように整理される。
(1)公費支弁の図書館は、共同体の全ての人に情報へのフリーアクセスを提供するために提供された唯一の機関である。
(2)『図書館の権利宣言』とその解説は、憲法の保護下にある表現への各個人のアクセスを保障している。
(3)図書館資料、サービス、プログラムの多様性を制限するような動きが立法、住民発案、州憲法修正といった立法行為として全国的に生じている。
(4)こうした制限は、図書館に一つの価値を他の全ての価値より好むことを強いる。
(5)未成年者のアクセスの制限を図書館に求めることは、自分の子どもの図書館利用を指導するという親の権利と責任に抵触する。


ALAは、基本的に図書館員に市民としての良心、義務感、正義感を捨ててあらゆる見解の収集と提供に徹するように主張している(ただし、ALAは差別や偏見には反対している)。しかしこれは現実的には困難だ。
また、ALAの社会的責任に関するラウンドテーブルは、被抑圧者に対して思想・言論の弾圧がなされている状況では、情報の自由な流通を主張しても抑圧者側に利すると主張している。つまり資料の主題・内容から検閲に対抗する必要がある。一方、ALAの知的自由委員会は、修正第一条の表現の自由を守るという立場に徹して、資料の主題・内容から検閲に対抗する論争はしないと主張している。図書館の自由や検閲について議論する場合、この二つの方向で議論があることは知っておくべきことだろう。

*1:Jeff Hall, “Federal judge strikes down Wichita Falls library petition resolution” Times Record News, September 28, 2000. Freedam to Read Foundation Newsで読むことができる。