武術としてのナイフ格闘

 またナイフの話。
 今回は武術としてナイフ格闘を学ぶ意義について語る。
 私はこれまでフィリピン武術やロシア武術のナイフ術を学んでいるが、ナイフそのものが好きで学び始めたという変わり種である(そういう人は自分の周囲には他にいない)。トレーニングナイフを使うのだが、それぞれ特徴がある。どちらも軍隊向けの課程ではないので、ここに書く話が全ての同種の武術に通じる話ではないと思っておいたほうが良いだろう。
 まず、いずれの武術においても、おのおのの武術の中心的な体術、技法があり、それに加えてナイフの形状、特性を活かした固有の技術がつながるという特徴がある。
 フィリピン武術で言えば、棒(いわゆるダブルスティック)の技が基本であり、同じ型でナイフも徒手格闘も行う。しかし固有の武器の特性を活かした技法がある。フィリピン武術におけるナイフ格闘の特徴は、このナイフの特性を活かした技法が様々な体術と関連づけられて応用できる点にある。
 フィリピン武術固有の技法は周辺の地域の武術や中国拳法(詠春拳など)に近いが(ジークンドーにおけるブルース・リーとダニー・イノサントの関係を想起されたい)、そうした技法体系とナイフのような武器術が密接につながっており、しかも他の武術・格闘技ともつなげやすい。そういう面白さがある。
 一方ロシア武術ではナイフは、徒手格闘の技法の認識を高めるトレーニングツールとしての側面がある。ナイフを持つと(攻守どちらも)緊張しやすく、また通常の打撃と違って当たっても力でこらえることが無意味である。そしてナイフを介して自他の力の流れを感じ取るにはより繊細な感覚が必要になる。ナイフを使うトレーニングは、徒手格闘のトレーニングよりも長所・短所を拡大して見せてくれる。
 日本でナイフ格闘を学ぶ意義とは、実際にナイフを使うかどうかより、武器の大きさ、形状によって変化する技術の応用の面白さや恐怖の克服といった側面がある。ナイフ格闘を学ぶことは、徒手の技術の理解も深める。