「図書館司書のための格闘技・武術知識講座」番外編

以前書いた図書館司書のための格闘技・武術知識講座 - 火薬と鋼の番外として、アメリカの公共図書館などで使われている分類法、デューイ十進分類DDC)における格闘技・武術について、分かりにくい点をまとめてみた。今回基にしたのはDDC23。
デューイ十進分類DDC)の格闘技・武術の分類は日本のものより細かく、また分類の考え方も違う。特に混乱しやすい部分を中心に紹介しよう。

768.8 Combat sports

http://dewey.info/class/796.8/e23/about
ほとんどの格闘技はここに収められている。


796.8019 Martial arts--psychological aspects
796.8071 Martial arts--education
796.8092 Martial artists


といったDDCらしい項目がある。個別の格闘技については見たままなので全ては紹介しない。

空手

796.8153 Karateという分類があり、当然空手はここに入るのだが、日本の拳法もここに入る。つまり日本拳法少林寺拳法の本はここに分類される。

中国武術の分類

中国の武術に該当するものは三つもある。


796.80951 Martial arts--China
796.8155 Chinese forms of martial arts
796.8159 Kempo and kung fu


これらは、南派とか北派とか、外家拳内家拳とか、そういった区分ではない。
厳密に使い分けられているのだろうかとちょっといくつかのアメリカの公共図書館の所蔵を検索してみたが、実際の図書館での使い分けはあまりシビアなものではないようだ。
注意してほしいのは、アメリカン拳法(American Kenpo)は空手なので796.8159ではなく796.8153に分類されるということだ(空手は琉球拳法、沖縄拳法のように拳法と呼ばれることがあり、アメリカの空手流派・団体にもそうした呼称が伝わっている)。

ブラジリアン柔術・サンボは柔道と同じ

ブラジリアン柔術は796.8152 Judoに入る。これはサンボも同じ。
DDCでは柔道・柔術近縁の格闘技は全てここに分類される。合気道だけは別で、796.8154 Aikidoという分類がある。

相撲は各種レスリングの中に

レスリングの中には次のように分類がある。


796.8120899712 Inuit wrestling
796.812092 Wrestlers
796.8122 Greco-Roman wrestling
796.8123 Freestyle wrestling (Catch-as-catch-can wrestling)
796.8125 Sumo


見ての通り、相撲はレスリングの中に分類がある。

武器格闘技はフェンシングに

796.86 Fencingにほとんどの武器格闘技が分類されることになっている(弓のような投射武器は入らない)。
フェンシング、剣道、杖道、棒術といったものがここに入る。日本人には少し意外かもしれないが、剣道や棒術のための独立した分類はなく、剣道も棒術もフェンシングと全く同じ分類なのだ。
また、日本十進分類弓道が武術の下に入っているのに対してDDCでは他の武術と弓術はかなり分かれた分類になっている(799.32 Shooting with bow and arrow (Archery))。そして戦争、実戦で使う武器術は軍事学(355 Military science)以下の分類に入る。

軍隊格闘技と武器術

軍における格闘技は
355 Military science >> 355.5 Military training >> 355.54 Basic trainingの下にある。


355.547 Small arms and bayonet practice
355.548 Self-defense


355.547が武器戦闘術、355.548が格闘術となる(なお、一般の護身術は613.66 Self-defenseに入る)。
注意点の一つは、Small armsをどう考えるかということ。Small armsを個人が携行する銃火器と捉え(これはDDCの他の項目623.44 Small arms and other weapons等との整合性もある)、ナイフや刀剣をSmall armsから除外して、Self-defenseの武器として扱うことがある。
注意点のもう一つは、中世以前の戦闘技術の扱いだ。歴史的な剣術の技術書・教則本などを355.547 Small arms and bayonet practice(あるいは355.548)にするか796.86 Fencingにするかという問題がある。戦争、実戦の技術を前提としている場合は前者に、競技、スポーツを前提としている場合は後者にしている例が多い。このため、宮本武蔵の『五輪書』のような昔の剣術の術理に関する本は355.547に分類される。また、忍術の本もしばしば355.547や355.548に分類される。


ここまで書いた話は実際の運用や書誌レコードに付与された分類に基づいている。
実際には異論がある人もいるかもしれないしれないが、話の種として面白いので書いてみた。


追記

ボクシング・キックボクシング・ムエタイ

ボクシングの分類は796.83 Boxingでボクシングとキックボクシング、ムエタイは同じ扱いとなる。この辺の格闘技が全てボクシングと同じ扱いというには日本十進分類と同じ。