特殊部隊のナイフとしてのダガー

映画やゲーム、漫画では特殊部隊隊員のナイフとしてサバイバルナイフやコンバットナイフが使われている例をよく見る。現実にもそうしたナイフが使われる例はあるが、戦闘用として考えた場合、両刃の短剣状のナイフ=ダガーもしばしば使われている。
軍用ダガーは、戦闘以外に使うことが多い一般の軍用ナイフと違ってほとんど戦闘用であるため、格闘技術との関わりが深い。一般の兵士と比べて近接格闘の可能性が高い特殊部隊だけにダガーを採用しているといった例もある。


特殊部隊で使われたことが明らかなダガーのうち、2000年代以降に使われたことがあるものからいくつか紹介してみる。

フェアバーン・サイクス・ファイティング・ナイフ


1941年、英国のW.E.フェアバーンとE.A.サイクスがデザインして生まれたナイフ。
近代軍隊格闘技に多大な影響を及ぼした指導者による設計であり、第二次世界大戦後も数多くの国の軍隊、それも特殊部隊を中心に使われ続けている。
現在イギリス軍特殊部隊SASで使われているほか、ベルギー、カナダ、カンボジアインドネシア、マレーシア、シンガポールでも現用である。各国で製造されており、無数のバリエーションがある。
多様なバリエーションを紹介するサイト The Fairbairn Sykes Fighting Knives - Home Page
刺突向きの鋭い作りで、幅広のナイフでは突くのが難しい部位を突くこともできる。フェアバーンらが指導したナイフ格闘にはこうした細身のナイフでなければできない技術がある。

ガーバー・マークII


ガーバー社から販売されたナイフ。米陸軍の退役軍人バド・ホルツマン大佐がデザインした。
ふくらみをもったブレードはローマのグラディウスがヒントになっているとされている。1967年から2000年まで製造され、その後も限定生産などで少数生産されている。特にベトナム戦争で米軍特殊部隊が使用した。
年代によって形状が変わり、初期のモデルでは突く時に自然な角度になるようにブレードとハンドルが一直線ではなかった。
各種バリエーション http://militarycarryknives.com/Knives.htm
このナイフが実際に兵士によく使われたのは1960〜70年代だが、その後も使われている話がある。一例として、デルタフォース隊員によって好まれたことがWeapons of Delta Force (Zenith Press, 2002)(Google books)に紹介されている。
また、ガーバー社はマークIIに似たナイフをいくつか製造しており、そちらも特殊部隊で使われた実績がある。ガーディアンIIがデルタフォースに使われたほか、コマンドIIはFBIのHRT(人質救出班)採用モデルが製造された。
類似モデル http://militarycarryknives.com/SimilarKnives.htm

SOGデザートダガー

SOG Knives Collectors - Desert Dagger
デザートダガーはSOG Specialty Knives & Tools社が1991年から2004年まで製造していたナイフ。
兵士の要望で生まれたナイフで、この名前も湾岸戦争を意識したものと考えられる。SOGはアメリカの会社だが製品は日本で行われていることが多く、デザートダガーも日本で製造された。
このナイフがNavy Seals隊員によって使われた例についてはDamn Few: Making the Modern SEAL Warrior (Hyperion, 2013)に記述があり、SEALsのローク少佐が語るナイフ - 火薬と鋼で紹介した。より小型のダガーペンタゴン画像)が使われたことも同書にある。

SOCPダガー

Benchmade Knife Company
SOCPダガーはSOCP (Special Operations Combatives Program)という米軍特殊部隊向け格闘技プログラムを作成したグレッグ・トンプソンがデザインした。2011年にBenchmade社から発売され、その後Spartan Blades社からもCQB toolの名前で販売されている。
これは今まで紹介したダガーと比べて格段に小型のナイフで、緊急時の護身、銃器との併用などを想定した独特のものだ。

Extrema Ratioサプレッサー

http://www.extremaratioknivesdivision.eu/english/prodotti/suppressor/index.html
サプレッサーはイタリアのExtrema Ratio社がイタリア軍警察特殊介入部隊G.I.S. (Gruppo Intervento Speciale)のために作ったナイフ。
この種のナイフとしては珍しくアルミ製ブレードのトレーニングナイフも販売されている。
同社は他にも第二次世界大戦期のダガーを現代風にしたhttp://www.extremaratioknivesdivision.eu/english/prodotti/adra/index.htmlhttp://www.extremaratioknivesdivision.eu/english/prodotti/ercommando/index.htmlを販売している。

Melita-K ShaitanとAkela


Shaitan http://melitak.com/images/stories/shaitan.png
Akela http://melitak.com/images/stories/akela.png

ロシアのMelita-K社が販売しているダガーはいずれも軍・警察用としてデザインされた。
Shaitanはタタールスタン共和国内務省の依頼で2001年に生まれたナイフだ。スローイング用のShitan-M(画像)というモデルも存在する。
Akelaはロシア内務省下の緊急対応特殊課(SOBR)の依頼で生まれたナイフだ。警察用として、コンパクトな大きさになっている。

Kizlyar KOシリーズ、Stalker


KO-2 http://www.kizlyar.ru/products/ko-2-rukoyat-iz-dereva
Stalker http://www.kizlyar.ru/products/stalker-rukoyat-iz-kozhi

ロシアのKizlyar社は2000年代から軍・警察用ナイフとしてダガーを設計・製造している。そのうち代表的な2例を挙げる。
KOシリーズは、ロシア連邦保安庁FSB)の部隊のために作られたナイフ。KO-1は刃渡り17cm、KO-2は20cmのモデルで、当初はウッドハンドルモデルとレザーワッシャーハンドルモデルだったが、後から樹脂製ハンドルモデルが製造されるようになった。
Stalkerはロシア内務省(MVD)の部隊のために作られたナイフ。これはダガーと言っても両刃なのは途中まで。ブレードの幅が広く、KO-1の鋭さとは対照的なブレード形状になっている。