ニューヨーク市警の犬に対する発砲の統計から

9月14日、千葉県松戸市で人に噛み付いた犬に対して警察官3人が13発発砲したという事件があった。
この事件で思い出したニューヨーク市警(NYPD)の統計を出してみる。
NYPDの統計については2008年にニューヨーク市警の命中率から - 火薬と鋼として紹介したように詳細な記録が公開されている。今回の事件報道で動物、特に犬に対する発砲の統計があったのを思い出したのだ。アメリカでは犬が人を襲う事件が多く、NYPDのように犬を含む動物への発砲の統計を出している警察もある。NYPDの統計を至極単純にまとめると警察官の犬に対する発砲の命中率は人間相手の場合より高く、ほとんどの場合一つの事件につき1〜2回の発砲で終わっている。
もちろん銃も違えば状況もそれぞれ違うわけで、この統計から今回の発砲の数が妥当かどうか主張したいわけではない。そういう検証は統計との比較よりは個別の状況で見るほかない。
なお、ニューヨークで犬に関する通報の件数は毎年3万件近くあるようで、この統計ではそのうち発砲を中心とした対応しか分からない(例えば警棒等で撃退した件数は分からない)。発砲はいずれも犬が襲ってきた事件で行われている。
今回はNYPDのAnnual Firearms Discharge Reportで公開されている2011年、2012年、2013年の統計から抜き出して紹介する。

2011年の統計

2011年には警察官による動物(全て犬)に対する発砲は36件あった。36件に関与した犬は43匹。警察官が発砲した回数は計79回。
43匹中、31匹が銃弾を受けた(12匹が射殺、19匹が負傷)。



2011 Annual Firearms Discharge Reportより

発砲した警察官の70%が1回のみの発砲。7回以上発砲した警官はいない。4分の3の事件で2回以下の発砲となっている。
参考までにこの年だけ人間相手のグラフも出しておく。


2011 Annual Firearms Discharge Reportより

統計では人間を相手に撃つよりも犬を相手にしたほうが命中率が高い。
NYPDの報告書ではこれについて動物の事件では射手と標的の距離が近いこと、動物が回避行動を取らないことを理由に挙げている。
2011年の記録で見ると、犬に対する発砲は全て5ヤード(4.75m)以内で起きている。
また、警察官は可能であれば銃ではなく非致死性の武器(警棒、催涙スプレーなど)の使用を試みるが、緊急性の高い状況で犬を停止させるために発砲しているとされている。

2012年の統計

2012年には警察官による動物(全て犬)に対する発砲は24件あった。24件に関与した犬は29匹。警察官が発砲した回数は計79回。
29匹中、20匹が銃弾を受けた(12匹が射殺、8匹が負傷)。29匹中22匹の犬種がピットブル。



2012 Annual Firearms Discharge Reportより

発砲した警察官の43%が1回のみ発砲し、43%が2〜5回の発砲だった。9回以上発砲した警察官はいない。

2013年の統計

2013年には警察官による動物(全て犬)に対する発砲は19件あった。19件に関与した犬は23匹。警察官が発砲した回数は計53回。
23匹中、15匹が銃弾を受けた(7匹が射殺、8匹が負傷)。23匹中22匹の犬種がピットブル、1匹がブル・マスティフ。



2013 Annual Firearms Discharge Reportより

発砲した警察官の77%が1〜2回のみ発砲し、1回のみの発砲が最も多い。最も発砲回数が多い事件では13回だが、これは複数の人間による。またリロードが必要になったことはない。使用した銃は、発砲した22人のうち12人がGlock、5人がS&W、5人がSIG Sauerを使用し、弾は全て9mmだった。誤作動はいずれも報告されていない。
発砲は全て0〜7ヤード(0〜6.4m)以内で行われ、64%は1ヤード(0.91m)以内だった。
21人の警官が光条件の報告をしており、5件で暗がりだったこと、2件でフラッシュライトが使用されたことが報告されている。


詳細を知りたい人はリンク先を参照してほしい。