なぜ本で戦うか〜システマを例に〜

先日の図書館司書・書店員必見!本や雑誌で戦う技術 - 火薬と鋼はかなりの反応があった。しかし本や雑誌で戦う必要性は、あのエントリでは分からない人が多かったのではないかと思う。
ああいった日用品を武器にする技術は、素手より攻撃・防御の能力を上乗せし、特に相手が武器を持っている場合に有効である。本であれ何であれ、素手で戦うよりも防御・攻撃の安全性や攻撃範囲は増すのである。
英語ではこうした武器をimprovised weaponと呼んでいる。無理に訳せば即席武器、代替武器といったところだろうか。武器が使えない状況での護身技術として軍でもimprovised weaponの研究はされており、多くの軍隊格闘技では身の回りの物を武器として扱う技術を教えている。
そうした技術の中でちゃんとした資料があるものと言えばロシアの特殊部隊の格闘技システマだろう。DVDが発売されている。
ステマのDVD「Improvised Weapons」の抜粋

今回はこのDVDではなく、1996年に発売され、今では売られていないVHSビデオ「Improvised Weapons」から本で戦う技術を紹介する。

表紙で流す

まずは基本について。
基本の一つとして、本の表紙でナイフのブレード側面を受け流す。

ただ手で本を傾けているのではなく、全体が安全な位置・角度になるように動いている点に注意。

挟む

もう一つの例は、開いた本でナイフのブレードを挟む。

ナイフをただ開いた本で受け止めているのではない。上の例と同様、刃をそらしている。

本を押さえてひねる。

防具として

ちょっと変わった例。ベルトに本を差し、本がある体の動きでナイフを受け流す。


受け流した後、逆側に体を捻って相手のナイフを持った手関節を極める。

以上の動きは、システマのナイフ捕り(knife disarming)でよくやる動きに本を加えたものである。本なしで同じことをすれば、刃が当たって危険な場合があるが、本があることによってより安全に実行できる。しかしこれだけ知っていればどうにかなるというものではない。

打撃

本の側面や角は、硬く狭いため、当たれば相手にかなりの反応を引き起こす。
この例では、まず一冊の本を両手に持った状態から始まっている。

手首のスナップを効かせて相手の前腕を打つ(手の甲を打つパターンもある)。

次に相手の頭部や首を打つ。

相手の肘を打つ。

さらに下から相手の腕を打つ。

更にこの後も攻撃は続く。短く鋭い動きで打ち、相手の動きを止めるなどの反応を起こさせている。

受け流しての打撃

相手のナイフを右手の本の表紙で流し、左手で相手の腕をとる。


動きを封じた相手の手を本で打つ。写真は打ち終わったところで、この後握りが緩んだナイフを左手で取っている。

本を間に入れる

この例では、相手のナイフと自分の体の間に本を入れることで攻撃を流している。

本によって方向を大きく変えたナイフを手と体で押さえ、体でひねる。


もう一つの例は下から首を突いてきたナイフと自分の間に本を入れる。

ナイフを持つ手を押さえ、手首を極める。


左手でナイフの持ち手を押さえたまま、右手は本で相手の喉をつく。

本の当て方

次の例は、逆手にナイフを持つ手首をコントロールする。

そのままであれば上から自分に突きたてられるナイフに対し、本を相手の手首に当てて回すように力を加えて攻撃方向をそらす。

ナイフの攻撃方向が自分から完全にそらしたら、本で相手の顔を打つ。


別の例。本を両手で持って受け流し、更にその本を回してコントロールする。


さらに別の例。ナイフを本で受け流した後、左手でナイフを持つ相手の手を押さえ、本を相手の手首や腕に当てる。



本を下向きにして受け流す例。


ここでは紹介しきれないが、こうした一連の例でも本を当てる位置や投げる攻撃など、いくつものバリエーションがある。

その他のバリエーション

ビデオではこの後改めて本を使う多彩なバリエーションを見せている。
この辺になると完全に説明が難しいので、一部だけ紹介する。
まずはパナナンダタにもあったような、本を親指を使わずに持ち、手首の側に本がある持ち方。

ナイフを制御した後は本の表紙で顔面を打つ。やはりこの持ち方だと本の表紙の広い面で打つ用法が入るようだ。

最後は相手をホールドする場合に使う例から。本の側面で前腕や肘の裏を押さえて動きを封じる。



以上の技術は、素手の技術をベースに本という物体を加えたものとなっている。武器がない状態で身の回りのものを武器として活かすのはまず素手の技術であり、更にその物体の形状や特性を活かす発想力だ。素手の技術が長けていなければどうしようもないわけだが、わざわざ本のような物を使うのは、刃物のような武器に対して不測の事態、危険性を減らす意義がある。