90年代のシステマの本から「東洋武術との違い」「機動性の重要さ」


今回は先日少し紹介した1997年発行のシステマの本Inside Secrets of Soviet Special Forces Trainingから「東洋武術との違い」「機動性の重要さ」を抄訳し、解説してみる。今回も重心の話を含んでいる。
全文きっちり翻訳するわけでなく、説明として必要な部分のみ、かなり省略して意訳しているので、ちゃんと原文を読みたい人は本を入手することをお勧めする。現在では出版されていない本だが、EbayやAbeBooksでたまに見かける。また、DVD『Russian System』の中に電子版が入っている。
なお、この当時はシステマという名称はなく、The Russian SystemやThe Russian Style、あるいはRussian Martial Artという言葉が使われていた。ここではこうした言葉は全てシステマとしている。

東洋武術との違い

  • ステマでは、格式ばった手順の儀礼はない。
  • ステマでは、スパーリング中に笑うことができる。システマのスパーリングはゲームのようなものでシリアスなものではなく、相手をリスペクトするものである。生活・訓練で常にシリアスであることは人を疲弊させ、本当にシリアスな状況で態度の切り替えができなくなる。
  • 多くの伝統武術はとてもシリアスである。 笑いやユーモアはまれで、顔は緊張して表情は厳粛に見える。
  • 伝統武術で相手が特定の方法で攻撃すると、練習で習熟した特定の方法で対応する。この方法は、柔軟な対応が難しい。
  • ステマのように、ゲームのようなスパーリングをしていると、直感による動き・自由な動きが可能である。
  • 東洋武術では、へそ付近を「丹田」と呼び、内的呼吸の海、または気が集まる場所としている。 システマでは「丹田」と同様に胃の後ろにある「太陽神経叢」を考えるが、貯蔵する場ではない。
  • 太陽神経叢は、「腹部の頭脳」とされ、交感神経系の一部で独自に内臓にアクセスする。東洋の「丹田」が「気」の貯水池であるのに対し、ロシアの「太陽神経叢」の特徴は、身体との相互作用にある。これはシステマの「自由な動き」の原理と一致する。

ステマと比較されている東洋武術は中国武術を想定している可能性が考えられるが、断言はできない。
ここではシステマとユーモア・笑い、そしてシリアスではない練習の意義といったものが説明されている。
真剣・必死な練習というものを良いものだとする人は多いのではないだろうか。しかしここでは、練習で必死だとしたら、本当の脅威にはどれだけ必死になることができるかと問うている。練習における楽しみや笑いは、真剣な状況のために必要だというシステマの考え方が解説されている。
後半の太陽神経叢、交感神経系の説明は原書でも端折った記述なので、気になる人はwikipedia:自律神経系を入り口に本などで確認したほうがいいと思う。
ここでは「システマでは太陽神経叢にどう影響を与えているか・どう活用しているのか」の具体的な話はないので、理解するのが難しい。

機動性の重要さ

  • 丹田はまた、伝統的な武術の重心を表している。東洋武術の戦士はより地面に接触している。彼らの安定したスタンスは、その起源である山の生活から来ている。地理・気候に対抗する安定性の必要から低い重心が見出された。
  • 一方、ヨーロッパの条件は異なっていた。安定性の必要はなく、高い重心が高い機動性をもたらした。システマでは、安定性ではなく運動の継続性が優れた効果をもたらすのである。

この後に東洋武術は動物の動きを模倣しているということとその原理に否定的な見解があるが、その部分は翻訳していない。
(動物の動きを真似るのが東洋武術の特徴だという認識は、中国武術に対する一頃の日本の解説書を連想する)
同書の一連の東洋武術観には異論もあるだろう。そもそも東洋武術として具体的にどの武術を想定としているかも明示されておらず、かなり大雑把な話だ。
ここでのポイントは、システマでは低い重心からくる安定性よりも高い重心からくる機動性を重視しているということだ。
以前紹介したシステマの重心の話に関連するので抄訳してみたが、よく考えたらトレーニングTIPSなど実際に練習する上でのポイントやガイドラインの部分を翻訳したほうが参考になったかもしれない。