『美味しんぼ』と『築地魚河岸三代目』を比較してみる。 - 三軒茶屋 別館
これを読んでちょっと調理学の本『マギーキッチンサイエンス』を思い出した。
- 作者: Harold McGee,香西みどり,北山薫,北山雅彦
- 出版社/メーカー: 共立出版
- 発売日: 2008/10/09
- メディア: 単行本
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その結果、料理マンガに出てくる知識も変遷がある。
中には誤りだったという話がいつまでも正しいものとして伝えられていることもある。
同書で紹介されている肉汁の話はその一例。
よく料理の説明では肉の表面を強火で焼きつけて肉汁が逃げないようにするという解説が見られる。
しかし同書によれば、それは誤りなのだという。以下、その説明を簡単に紹介しよう。
まず、この肉の焼きつけという考えは1850年頃、ドイツの化学者ユストゥス・フォン・リービッヒによって考え出された。
それまでヨーロッパでは肉をローストしてから最後にさっと表面を焼きつけていた。
これに対し、リービッヒは、肉に含まれる水溶性成分が栄養として重要だとして、著書Research on the Chemistry of Foodで肉をすばやく加熱し、膜・殻を形成することを主張した。
リービッヒは肉片を沸騰する水に入れ、次に温度を下げてとろ火で煮込むと表面のたんぱく質が凝固し、外側の水がしみこまないことを説明している。
これは、表面を一気に加熱することで水分を通さない膜、殻のようなものが形成されたと考えられた。
同じ理屈で、肉を焼く時も表面を焼きつければ内側の水分=肉汁が逃げないようになると主張したのだ。
この考えはたちまち広まり、多くの料理書で書かれるようになった。
しかし、1930年代に行われた簡単な実験でこの考えが間違っていることが実証された。
肉を焼きつけた部分からも水分は出ていくのである。
実際には肉の水分損失は肉の温度と比例し、高温で焼き付ければ肉の表面は乾燥してしまう。
ただし、焼きつけることで肉の表面で褐変反応産物が生じて風味は増す。
要するに肉の表面を焼き付けるのは、肉汁を逃さないためではなく、風味を増す方法として正しいとある。
しかし肉汁が逃げないように焼きつけるという話のほうが現在でも普及している。
そんな知識も分かりやすく解説されている『マギーキッチンサイエンス』は、学術書や学校の教科書ではなく、一般家庭向けに記述されていてお勧めの本だ。
本がでかいのと高いのが難点だが(図書館にあっても読むのは大変)、それだけの価値はある。
マギーキッチンサイエンス ―食材から食卓まで― / Harold McGee 著 香西 みどり 監訳 北山 薫 北山 雅彦 訳 | 共立出版で目次と紹介を見ることができる。
去年出た本で最も面白い本はこれだ!