Strikes : Soul meets bodyよりシステマのグローブ・エスケープという練習

Strikes : Soul meets bodyのp94-96からシステマの手袋を使った個人練習を紹介する。
これもシステマのクラスでやるにはあまり向いていない内容の練習だ。
まず、片手に手袋をはめる。その手袋を、はめている手の動きだけで脱ぐ。それだけの練習である。
もう片方の手を使ったり、体で手袋を挟んだり、周囲に手袋を引っかけたりといったズルはしない。
重力の助けも使ってはならない。手を下に向けず、横に向けたままでこの練習をやること。
手袋の種類、きつさによっては無限というほど時間がかかるかもしれない。
1分以内で脱げるようなら、よりきつく脱ぎにくい手袋で試すこと。
片方の手袋でのやり方を完全にできるようになったら、両手に手袋をはめて同じ練習を両手でやる。
グローブ・エスケープは全身の練習であり、指の動きと認識のための練習でもある。
普通ではありえない手の動きを行う事で新しい神経経路を作り出すと同時に、呼吸を忘れていないか、体のどこかに緊張がないか、呼吸のテンポや強さを変える事でどう変わるか、様々な状態を確認することができる。
これは部分的には心理的な練習でもある。動きは指から生まれることを教えてくれる。手の小さな筋肉の機能を発達させ、そうした筋肉を硬直させるストレスを制する備えとなる。
手袋と手の感受性によっては非常に困難で、過程だけを重視しがちだ。そういう時に陥る心理状態について同書で説明されているが、いい訳が思いつかない。
この練習のためのヴラッド先生の言葉だけ訳しておこう。


ヴラディミア・ヴァシリエフ師の言葉「あなたは脱がなければならないと常に自分に言い聞かせなければならない」

Strikes : Soul meets bodyよりシステマの静的プッシュアップについて

再びStrikes : Soul meets bodyからシステマのストライクのための個人練習について紹介する。
今回はプッシュアップの姿勢で静止した状態を維持する練習についての記述を引用しよう。
拳を床についたプッシュアップの体勢(高い位置で、中間で、低い姿勢で胸を地面につけないで)のまま動かないという練習だ。
ヴラディミア・ヴァシリエフ師は次のように説明している。

重い拳の練習のため、あなたが拳のプッシュアップで体の位置が上にある体勢を保つ場合、その状態でいるのは10〜15秒だけにしなければなりません。そうすれば起き上がって「ああ、今拳が重くなっている」と感じることができます。もし長く同じ状態でいすぎると、筋肉が緊張過剰になり始め、やがて拳の感受性を失ってしまうでしょう。この練習で同じ状態でいる時間が数秒にしろ1分にしろ何にしろ、床に接している拳から緊張が広がってくるのを感じたら、あなたの力が失われつつあることを意味します。もしあなたが肩や床に接している拳以外の部位で緊張を感じたとしたら、やめてください。
(中略)
私が拳をつけたプッシュアップの体勢を維持する場合、私は体ではなく床だけを感じるようにする。
Strikes : Soul meets body P104-105

このまま翻訳していくと長くなって出勤に影響しそうになってきたのでここで引用を終える。
この練習によりストライクで練習相手の一部ではなく全体を打つことができるとされている。
一部しか引用していないが、同書ではこの練習についてより詳しく触れられている。

Strikes : Soul meets bodyよりシステマの壁を殴る練習について

先月購入したStrikes : Soul meets bodyの話。
この本で解説されているシステマの打撃の練習についてはいずれシステマ杉並練習会でも取り入れていく予定だが、練習場所の都合でできない練習もある。
今回はその中の一つ、ウォール・パンチについて紹介する。
ステマの打撃に必要な拳が作れているかどうか・適切に打てているかどうかをセルフ・チェックする練習だ。
文字通り壁を殴るのである。
ステマの練習をやっている人向けで、未経験者や初心者がいきなりやることはお勧めしない。

非常にシンプルな練習です。壁に近づいて壁を殴ってください。もし「うわっ! 痛っ!」となるようだったら、戦闘で硬い骨に拳を当てた場合に拳を痛めることを意味しています。
Strikes : Soul meets body P123

同書によると、この練習では痛みが出ないように壁を殴らなければいけない。
拳を痛めないように壁を打てれば、人体の硬い部分にも同様に当てることができる。
これは肉体的なものだけではなく、心理的なものでもある。テンションの問題であり、ストライクの深さの問題でもある。
壁の表面だけに接触すると痛みを生じるが、深く貫いていると衝撃は内部に通じ、痛みは減る。
この他、練習相手の身体と壁を交互にパンチするという練習も紹介されている。

ジェームズ・ボンドもシステマ使いだった:システマが登場する海外小説いろいろ(〜2015年分)

ロシアの特殊部隊スペツナズの格闘技としてシステマが西側社会に紹介されてかなりの年数が経ち、システマを登場させる小説も増えた。
今回はシステマが登場する英語圏の小説を出版年順に紹介しよう。
紹介するのは2000年〜2015年に発行された小説で、私が実際に読むかGoogle Booksでシステマの記述を確認できたもの(内容未確認のものはまだまだある)。邦訳が出版されているものは邦訳タイトルをつけた。

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Strikes : Soul meets bodyの聖書引用メモ

先日発売されたヴラディミア・ヴァシリエフ師とスコット・メレディス師によるシステマの打撃をテーマとした本Strikes : Soul meets bodyには様々な著作、発言の引用が含まれており、その中には聖書からの引用も含まれている。
メモとして、口語訳聖書の該当部分をまとめておく。本では章節番号がところどころ間違っていたのでこのメモでは修正している。他の訳の聖書については後でこっそり足すかもしれない。
邦訳が出たらほとんど意味がなくなるメモである。

  • Chapter 1

なお、あなたがたは時を知っているのだから、特に、この事を励まねばならない。すなわち、あなたがたの眠りからさめるべき時が、すでにきている。
ローマ人への手紙 13:11)

  • Chapter 1
    • P21

それから、イエスは宮にはいられた。そして、宮の庭で売り買いしていた人々をみな追い出し、また両替人の台や、はとを売る者の腰掛をくつがえされた。
そして彼らに言われた、「『わたしの家は、祈の家ととなえらるべきである』と書いてある。それだのに、あなたがたはそれを強盗の巣にしている」。
そのとき宮の庭で、盲人や足なえがみもとにきたので、彼らをおいやしになった。
マタイによる福音書 21:12〜14)

  • Chapter 5
    • P153

わたしは彼らを地のちりのように細かに打ちくだき、ちまたのどろのように、踏みにじった。
サムエル記下 22:39)

  • Chapter 9
    • P281

弟子はその師以上のものではないが、修業をつめば、みなその師のようになろう。
ルカによる福音書 6:40)

  • Chapter 11
    • P293

おおよそ、心からあふれることを、口が語るものである。
マタイによる福音書 12:34)

    • A HARD RAIN COMING DOWN P296

父たる者よ、子供をいらだたせてはいけない。
コロサイ人への手紙 3:21)

    • A HARD RAIN COMING DOWN P297

ペリシテびとは見まわしてダビデを見、これを侮った。まだ若くて血色がよく、姿が美しかったからである。
サムエル記上 17:42)

    • A HARD RAIN COMING DOWN P298

わたしたちの戦いは、血肉に対するものではなく、(略)悪の霊に対する戦いである。
エペソ人への手紙 6:12)

    • A HARD RAIN COMING DOWN P299

戦することをわが手にをしへ 闘ふことをわが指にをしへたまふ わが磐ヱホバはほむべきかな
詩篇 144:1)

    • A HARD RAIN COMING DOWN P299〜300

(略)主は、信心深い者を試錬の中から救い出し、また、不義な者ども(略)を罰して、さばきの日まで閉じ込めておくべきことを、よくご存じなのである。
ペテロの第二の手紙 2:9〜10)

『太極拳パワー』の中のシステマの記述

『全ての流派に通じる、現代の太極拳バイブル 太極拳パワー 「ARCプロセス」で、内部エネルギーを足から手へ!』の著者のスコット・メレディス師は太極拳形意拳に関する著作のほか、システマのインストラクターとしても知られている。システマの本『秘伝・ロシア式呼吸法の達人たち (Let Every Breath...Secrets of the Russian Breath Masters)』の著者の一人でもある。
太極拳パワー』はタイトル通り太極拳に関する本だが、他の武術に言及した箇所もあり、システマについても触れている。
しかしどの部分だったか読んだのがかなり前だったせいかすっかり忘れていた(そもそもどの本に載っていたのかを忘れていたわけだが)。
最近読み返して確認する機会があったので、今後のために引用しておこうと思う。
該当箇所は「第5章 格闘術としての太極拳」にある。

推手は本質的に格闘術を発達させるシステムではないと断言しているが、闘争に効果的な破壊力に迫る力を発達させることができる。実際に太極拳の推手の特質を99パーセント使ってロシア武術システマの力強い関節技に見られるような実際の闘争場面で使えるスキルを発達させる武術家もいる。彼らは即座に推手から現実の闘争モードへ移行することができるのだ(ロシア武術システマの力強い関節技については、ロシアの武術家であるウラジーミル・ワシーリエフ氏のDVDを参照)。ウラジーミル・ワシーリエフ氏が示す力強い関節技は、真の闘争用推手である。相手の関節を掴み、ギブアップを待つことなく瞬時に破壊してしまう。推手は自己防衛には不適切であると言い放ったものの、ある人にとっては、実際の闘争に使えるスキルに成り得るのだ。ただ、そのスキルを練習するのは簡単ではない。
(スコット・メレディス著『太極拳パワー : 全ての流派に通じる、現代の太極拳バイブル : 「ARCプロセス」で、内部エネルギーを足から手へ! 』(BABジャパン、2013)238ページ)

ここでいう「力強い関節技」はdynamic joint breaksのことである。

ステマ太極拳をどちらも練習している(あるいはしていた)人は多く、両者を並べて書かれた文章もWebに数多くある。だが、ほとんど海外で書かれたものだ。
一方、日本ではシステマ合気道の類似・相違について説明している例はあるが、太極拳と比較をしている例は少ないようだ。特に漫画で使われている説明だとこの傾向が強く、太極拳への言及さえない。この差は練習者の興味や人口、雑誌での紹介のされ方の違いによるものだろうか。

『神技の系譜』と手裏剣術の図書館分類

甲野善紀著『神技の系譜 武術稀人列伝』(日貿出版社)を読んだ。

神技の系譜 武術稀人列伝

神技の系譜 武術稀人列伝

日本の武術に詳しい人には知られているが、一般にはなかなか知られていない達人について様々な史料や研究に基づいて紹介した本だ。
同書を読んで、図書館分類(日本十進分類法)において手裏剣術を剣道に分類する話につながる部分があったので引用しておく。
該当する部分は手裏剣、手裏剣術とその達人を紹介している第五章にある。

(前略)明治政府がまとめた一種の百科事典である『古事類苑』で手裏剣を記載する際にも分類を弓術にするか剣術にするかで問題になったという。この時は、大日本武徳会が先にも登場した只野真葛の『奥州波奈志』を参考資料とし、「弓の形、剣の精神」ということで、剣術に併入されることになったという。
甲野善紀著『神技の系譜 武術稀人列伝』(日貿出版社、2015)343ページ)

この「弓の形、剣の精神」にあたる説明は『根岸流手裏剣術要録』にもあり、成瀬関次『手裏剣』(新大衆社、1943)に引用されている。『手裏剣』の該当部分もこの『神技の系譜』で紹介されている(孫引きになるので引用はしない)。
これだけだと意味が分かりにくいので解説を加えると、手裏剣術は矢を手で投げる「打ち根」と剣術の剣を投げる「打物」を融合したものだという考えに由来する*1(それが全ての手裏剣術の起源・発祥とまでは言い難いだろうが、そういう認識があるということである)。この考えによると、手裏剣術の構えは弓術(打ち根)に由来するが、投げる際、手に持っている剣で斬り込むような意識は剣術のものだというのである。
日本十進分類法で剣道・剣術・居合・手裏剣術が全て789.3 剣道に分類されることは図書館司書のための格闘技・武術知識講座 - 火薬と鋼で解説した。こうした図書館分類は、遡るとこうした武術の歴史や考え方が基になっていると考えられる。

*1:本当は投げるではなく「打つ」