今こそホメオパシーの図書館分類を見直す時

 偽薬以上の治療効果がないにも関わらず広まっている代替療法ホメオパシーについて、日本学術会議が否定の会長談話を出してから様々な動きがみられる。


談話:
「ホメオパシー」についての会長談話 - 日本学術会議 (PDF)
報道:
http://www.asahi.com/national/update/0824/TKY201008240373.html
アピタル(医療・健康・介護):朝日新聞デジタル


 談話の公開後、日本医師会、日本医学会、日本歯科医師会、日本歯科医学会、日本獣医師会、日本獣医学会、日本薬理学会、更に日本助産師会もこの談話に対して賛同を示しており、医療におけるホメオパシーの価値の否定が初めて広く一般に曝け出された。


 ここで一つ提案したいことがある。
 ホメオパシーの図書館における扱いについてだ。ホメオパシーは日本の図書館では日本十進分類の492.3(化学療法. 薬物療法)に分類されているのが常となっている。しかし、この分類は通常の医療の世界で用いられる薬物を使った治療法のものであり、ホメオパシーのような薬効成分を持たないものを用いる民間療法に対して付与すべき分類ではない。こうした分類は、利用上も不都合でしかないだろう。
 そこで、改めてホメオパシーの図書の分類を確認し、492.79(民間療法 触手療法)への分類変更など、扱いを再考すべき時だと考える。今回は日本学術会議の声明というわかりやすい資料と報道があるため、医学の知識が少なくとも検討を促すために利用しやすい材料が揃っている。
 従来、図書館ではホメオパシーに限らず代替療法が通常の医学・医療の分類で扱われていることが多い*1国立国会図書館でも件名「代替医療」の図書は、日本十進分類分類で492(臨床医学. 診断・治療)にしてきたという流れもある。
 だが、こうした通常医療と代替医療の同一視は、現実の研究や医療の現場から考えると無理がある。特にホメオパシーの場合、治療方法や理論は薬物療法や化学療法と全く噛み合わないし、ホメオパシー団体は通常医療を否定している。以上の点から、薬物療法として分類するには不都合があるが、民間療法として分類することには不都合がない。現に公共図書館で492.79に分類されているホメオパシーの本の事例もある。
 また、492.79に分類するメリットには、ホメオパシーを含む代替医療を検証した本と同じ分類に並ぶ事も挙げられる。有名な代替医療批判の本であるサイモン・シン代替医療のトリック』や各種代替医療の検証結果を紹介した『アメリカ医師会がガイドする代替療法の医学的証拠―民間療法を正しく判断する手引き』といった資料は大抵492.79に分類されている。こうした代替医療の批判・検証の資料が近くにあることで、利用者はホメオパシーを含む代替医療について多様な情報を知る機会が増える。現在の薬物療法の分類では、そうした批判的な情報に接する機会は少ないままだ。
 これを機にホメオパシーの(できれば他の代替医療も)分類について、検討すべきだというのが私の提案だ。図書館職員であれば自館の蔵書を、利用者であれば利用している図書館のホメオパシーの図書を確認し、その分類を再考するように促してほしい。図書館の様々な考え方や背景から単純に受け入れられないかもしれないが、こうした分野の図書について再考するのに今回ほど良い機会はない。


分類とニセ科学についての過去エントリ:
図書館とニセ科学と過去の誤謬 - 火薬と鋼

*1:日本の一部の医大の図書館で使われている米国国立医学図書館分類表ではホメオパシーはちゃんとComplementary and Alternative Therapiesの下に独自に分類が作られているが、日本の公共図書館やほとんどの大学図書館ではこの分類法は使われない。

ヘビが飼い主を測る話を疑う。

仲里依紗のブログでこんな話があった。
http://ameblo.jp/ri---sa-bi-kaku/entry-10600083696.html
(Webarchive 本当にあった怖い話し|仲里依紗オフィシャルブログ「B型革命」Powered by Ameba

要するに大型のヘビが飼い主を食えないか、大きさを測っていたという話だが、どう考えてもおかしい。はてブを見ても信じているような人が多いが(あるいは真偽はともかく怖がっている/面白がっている人も多いだろう)、おかしいと思わなかったのだろうか。
まず、蛇はいちいち獲物の体長を自分と比較してから襲っているだろうか。直感的に考えても、動物番組や書籍を元にした知識でも、悠長に体を並べて大きさを測るというのは、ありえないことだと考えられる。野生の状態で肉食動物がそんなことをしていたら獲物になる動物は危険に気づいて逃げてしまうだろう。
それと、この話の展開にも疑問がある。最初に不可解な状況があって、途中で誰かの助言で逃げ出し、最後の説明で恐ろしい状況であったことが分かるというのは、都市伝説の典型の一つだ。例えば有名なwikipedia:ベッドの下の男は、今回の話と全く同じ構造をしている。


そこまで考えて、これは何かの都市伝説だろうと判断した。都市伝説検証サイトで調べてみたら、やはり該当する元ネタの記事があった。
https://www.snopes.com/critters/snakes/measured.asp
ここではパイソンの話として紹介されている(色々検索すると他のヘビにされているバリエーションもあるが、とにかく大型の蛇にされている)。
以下、snopes.comの解説を簡単に紹介しよう。
この話の問題点には次の3つがある。
・パイソンは食べる前に獲物を測らない。
・通常家で飼われる蛇で人間の肩と頭を飲み込めるものはいない。
・飼い主は、何週間も蛇が食べなければ診断に連れて行くだろう。
※オリジナルの話には動物病院に診せる部分がないためにこういうツッコミがあった。今回の仲里依紗の話に診察してもらったとの説明があるのは、この不自然さに対処したバリエーションだからだと思われる。
こうした問題点と、伝聞で多様なバリエーションが広がっていることから、事実ではないと判断できる。


 この話は、2008年2月にオーストラリアで野生のパイソンがペットの犬を食べたという事件が元になっているという。このペットを食べられた家族は、以前にもペットの猫やギニアピッグを蛇に食べられるという体験をしていると報じられた。都市伝説の話とはだいぶ違うが、身近な存在が蛇に食べられるという恐ろしい実話と文化的な蛇に対する恐怖感が根底にあってこうした話が生まれたと考えられている。

今更巨人の骨なんて信じるやつがいるのか

あごひげ海賊団 : 巨人族みたいな遺体が見つかった
はてなブックマークを見ていたら上のような巨人の骨を発見したという記事をみつけた。
どう見ても実在のものではなく、画像を加工しただけの代物だ。
この手の巨人の骨や化石がみつかったという話題はアメリカを中心に人気で、中には真面目に受け取っている人もいる。
上のニュースもリンクを遡ると海外の陰謀論者のサイトhttp://www.concienciaradio.com/gigantes_grecia.htmにたどり着く(今は消滅)。
何故この手の巨人が受けるかというと、旧約聖書には巨人族ネフィリム(wikipedia:ネフィリム)の記述があり、巨人の骨や化石がみつかれば聖書の正しさを実証する根拠が増えるからだ。
何度も発見の報(虚報)があるノアの箱舟と同じようなものだと思っていい。
ただし、確認が容易な巨人の場合、実物があっても簡単にでっちあげが分かる。
古い例で有名なものに「カーディフの巨人」がある。
これは巨人の化石と偽って特別にあつらえた石膏像だ。
Skeptic's Dictionary: カーディフの巨人
Redirect to Lockhaven.edu
さすがにこれはどう見ても作り物なのでバレたが、当時は信じる人もかなりいたようだ。


後の時代の人間はもっとずるく、実物を出さずに写真と逸話だけを提示し、「マスコミが隠した真実」などと銘打って情報を流している。
画像を作成・編集した人間は遊びのつもりでも、勝手にキリスト教原理主義創造論者やオカルト好きに引用され、適当な逸話や設定が足されていることもある。
しかし、人間の骨をそのまま拡大したような形状の巨人はありえないだろうとか、本当なら報道されているだろうとか基本的なツッコミ所が多いのだ。
巨人の骨には有名な例がいくつかあり、今回の画像もその一つで、とうにネタが割れている。
下の都市伝説検証サイトを見てほしい。有名な事例が加工前の画像へのリンクとともに解説されている。
FACT CHECK: Giant Skeleton Uncovered in Saudi Arabia? 都市伝説検証サイトの記事
http://news.nationalgeographic.com/news/2007/12/071214-giant-skeleton.html National Geographicの検証記事


英語が面倒な人のために簡単に紹介しよう。
まずはサウジアラビアで発見された巨人の骨という触れ込みの画像。
http://www.snopes.com/photos/odd/graphics/giantman.jpg 
しかしこれは編集元を遡るとhttp://www.worth1000.com/というサイトに投稿された画像編集のフェイクだ。
ここの「考古学的異物」をテーマとする画像編集のコンペに投稿された画像と判明している。
Giant Skeletons Seem Too Real To Be A Hoax 投稿画像
更に遡ると編集元はAerial Views of Hyde Park Dig Site(webarchive)にあるマストドンの化石発掘の画像であることが分かっている。
この画像の説明を変え、インドでみつかった巨人の話にされている例もある。
Bhima's son Gadotkach like skeleton found 同じ画像がインドで発見されたことに。


そして一番最初に挙げたサイトで話題のギリシアでみつかったという触れ込みの画像の一つは、シカゴ大学のPaul C. Serenoが発掘した草食恐竜の化石の発掘現場の画像が元になっている。
University of Chicago News Office: Sereno Expedition images 加工前画像は上から5番目
多くの巨人の骨の画像は、現実の化石発掘などの画像に人骨の画像を加えることで作成されているようだ。
この他にも類似の巨人の骨の画像は他にもあり、来歴が解明されていないものもあるが、これまでの経緯と紹介文のおかしさから悉くフェイクであることはまず間違いない。
しかしまるで本当のことのように紹介する人は絶えない。
この現代にあの手の記事や画像を信じる人がどれだけいるかは疑わしくもあるが、うかつな人や『ムー』の記事を信じるような人、創造論を信じるような人には信じる人もいるようだ。

ニコ生 "シノドス・セミナー51.菊地誠「科学と科学ではないもの」"を見て

シノドスセミナーで菊池誠先生の回があることを知って申し込みしたのだが、ちゃんと送信されておらず、しかもその事を忘れていた。
忘れすぎだ自分。
しかしニコニコ生放送で一部見られると知って今日の3時30分から視聴。いくつか気になった点を書く。


・内容のテキスト起こしはシノドスメールマガジンで配布される予定(http://synodos.jp/mail-magazine
・OHPが見にくく、ほとんど見えなかった。資料は別にアップされるとありがたい。
ニセ科学問題を普段追ってない人も視聴していた様子。また、放送開始前から「と学会」、「大槻教授」、「脳科学」への言及やオカルト問題、ニセ科学という呼称についてなどのコメントが流れていた。
・先生の名前から「まこまこり〜ん」というコメントがついたあたりは実にニコニコらしい。菊池誠先生が得意のテルミンアイマスの曲をやっていればきっとウケただろう。
・冒頭の統計についての事例は食いつきが良かった。その後の科学の定義やグレーゾーンの認識はところどころ伝わりにくいのではないかと思う部分があった。
・私が気になったのは、科学は白黒はっきり分けるものではないことを繰り返しつつも、その白黒はっきりつけられない事がニセ科学に利用される事があるという側面への言及が少なかったこと。科学とそうでないものについて、グレーゾーンはあるがはっきりしている部分もあるということは説明されていたので、その辺にこだわると更にややこしくなるだけだった可能性もある。
・科学は白黒はっきり分けるものだという一般の認識、そして道徳のようなものまで科学に判断してほしいという過剰な期待が背景にあるという今回の説明は、また色々と議論が膨らむ話だと思う。
ニセ科学問題の議論についてのFAQについてはもうちょっと長く説明したほうが良かったかも。コメントにもそれと関わりそうなものがあったし。
ニセ科学についてニコ生のコメントを元に紹介する例を選ぶというのは面白い。その結果紹介する事例がマイナスイオンというのは微妙に旬がズレている感があるが、あれも一部に定着しているし今のほうが色々語れることが多いので良かったと思う。
ニセ科学の例の希望に「民主党」というコメントがあったのも実にニコニコらしい。さすがにネタとして笑いとツッコミがあったが、それとは別に放送開始前から開始後まで自分が嫌っているものへの嘲笑として「ニセ科学」を使うコメントが部分部分にあったのが気になる。ネタがすぎるとちょっと厄介かな、と。何しろ以前、唐突にブログで「ニセ科学批判は政治運動」と批判した人がいたほどだし。
・最終的に視聴者は6,000人を越えたようだが、視聴者はニセ科学問題にどういう関心を持っている人なのだろうか。
(2010-05-17 誤字修正)

「パワースポット」についての懐疑的なメモ

パワースポットめぐりでパワーを奪われていないだろうか?:日経ビジネスオンライン
 最近流行の「パワースポット」についての批判記事だろうと思って読んだのだが、思い込みが激しいのか調査を十分していないのか、おかしな解釈や説明があった。

(略)英語の辞書を引いてみても、「パワースポット」なんていう言葉は出てこない。さよう。これは、まるっきりの和製英語なのだ。

 これが一番ひどい勘違い。
 power spotという言葉はもともと英語に存在する。
 私が知っている例だと、カルロス・カスタネダwikipedia:カルロス・カスタネダ)が使っていたのを思い出す。
 カスタネダは1973年からヤキ・インディアン呪術師から伝えられた呪術の知識を広めた人物で(後にほとんど捏造・剽窃であることが判明)、ニューエイジ運動に親和性が高く、その種の活動者に影響を与えた。
 1975年のTimes誌のインタビュー記事でもpower spotについての言及がある。
Carlos Castaneda Time Magazine Interview
 Google Booksで"power spot"で検索すれば他にも現在の日本の「パワースポット」と同じ意味で洋書・洋雑誌で使われた例が無数に出てくる(違う意味のものもある)。
 大体、特殊な分野の用語については一般向けの辞書で調べるものではない。


 後はパワースポットについて、気になったことを書いておこう。
 パワースポットという語は、日本ではスピリチュアル・ブームの頃から女性誌などで使われている。
 これはCiNiiで検索するといくつかの例がある。
 面白いのは2000年3月号の月刊エネルギーレビューに「ルポ 地球のパワースポット、ヴォルテックスを訪れて 米国アリソナ州セドナ」という記事があること。なぜエネルギー関連の雑誌にこんな記事が載ったのだろうか。
 それ以前でも日本で使われた例はある。清田益章『発見!!パワースポット』(1991、太田出版)のような本もあった。
 ざっと検索したところ、90年代にはオカルト本や風水の本で使用例がある。
 それがスピリチュアルブームの影響からか、より多く使われるようになっていった。
 特に今年に入ってからはテレビ番組、それも旅、観光に関わる番組やコーナーで見るようになった。
 こうした言葉のブームに代理店の影響があるのか、それともブームを代理店が利用しているのかはわからない。
 スピリチュアルブームや芸能人の影響はありそうだが、全てを代理店や業者が仕組んだように考えて良いかどうかは疑問がある。
 少なくともセドナに関して和製英語で日本人観光客を呼ぼうとしているというのは事実に合わない。
 パワースポットは和製英語ではないし、セドナは日本のパワースポットの流行より以前からパワースポットとして知られていたからだ。


 肝心のpower spotという語が英語圏でいつ頃使われるようになったのかは、把握していない。
 この言葉は、power centreやpower placeという語と同じとされている。レイラインwikipedia:レイライン)と関連付けられていることも多い。
 まず、前提としてパワースポットに似た概念は古くからある。
 日本でも宗教・伝説にまつわる土地・建築物で病気が治る・幸運に恵まれる話があるように、海外にもこの種の話はある。
 有名なルルドの泉(wikipedia:ルルド)もその一つで、海外ではこれもpower spotと呼ばれていることがある。
 だからインディアンの聖地についてその種の伝承があっても不思議ではない。
 だが、現在のアメリカのpower spotに関する情報はニューエイジ運動の影響が色濃く、古くからその土地がもたらす影響についての伝承があるとは限らない。
 後付でインディアンの聖地だからスピリチュアルな効果があると言われているような印象がある。
 この「聖地とされている土地」=「良い影響を人にもたらす土地」と決め付け、伝統的な宗教的解釈より今風の説明(霊的な力とか地球のエネルギーとか)を与えたものが現代のpower spotと言っていいだろう。
 中には聖地だということ自体後から作ったのではないかと疑われる場所の例もある。
 こうした海外のpower spotと比べ、日本では神社のご利益がそのままパワースポットの効果になっている例が多く、伝統をかなり引きずっている感が強い。
 (どちらにしても効果の宣伝が増し、オカルト度も増している印象はある)
 アメリカのセドナについて言えば、ニューエイジ関連の著作で知られるDick Sutphenが1978年に出したPast Lives, Future Lovesという本からパワースポットとしての認識が広まったという*1
 更にSutphenは1993年にこの認識を押し広げたPsychic Energy Vortexesという本を出した。
 同書でStuphenはVortexという地球のエネルギーが湧き出るセドナの場所を同定し、それがセドナの観光に影響を及ぼすようになったのだ。
 こんな後付の理屈でも信じる人は多いのか、セドナを利用したいかがわしい代替療法・治療体験談は無数にみつかる。

フードファディズムの基本形は変わらない。『食と栄養の文化人類学』

ポール・フィールドハウスの『食と栄養の文化人類学 ヒトはなぜそれを食べるか』(1991年, 中央法規)という本がある。かなり以前に食品会社の図書館での仕事絡みで読んだことがあったのだが、最近食養MLでの投稿集(2)はてなブックマークがついていて改めて思い出した。同書の内容は食物と人間社会、文化の関わりについて解説した本で、原著Food and nutrition : customs and cultureは1986年に出版された。この本では科学的根拠のない健康食、フードファディズムについて、アメリカの初期の研究を元に解説を行っている。
現代日本にも通じるところがあるので、フードファディズムに関する節「信心食と民間食法」に解説を加えて紹介しよう。インチキ栄養学やペテンの健康食品といった問題だけではなく、ニセ医学にも通じるかもしれない。

信心食(cultism)と民間食法(quackery)

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ダン・ブラウン『ロスト・シンボル』と水からの伝言

 『天使と悪魔』、『ダヴィンチ・コード』に続き、美術と宗教と科学、そして陰謀論をベースとしたラングドン教授シリーズの第3作の邦訳がとうとう発売された。

ロスト・シンボル 上

ロスト・シンボル 上

ロスト・シンボル 下

ロスト・シンボル 下

 基本的に前2作と似た構成であり、そして前2作同様、背景となる知識部分に問題点が多い。
 中でも特筆すべきは『水からの伝言』ネタが扱われていることだ。
 『ロスト・シンボル』では有名ないくつもの疑似科学・超常現象ネタ*1の研究が最新の科学のように扱われていて、言葉によって水の結晶が変わるという話もその一つとされている。
 こうした研究分野は、作中では純粋知性科学の研究として一括りにされている。
 この小説も映画化が既に決まっているので、それにあわせてこの小説の疑似科学ネタ、超常現象ネタも広がってしまうのではないかとちょっと心配になる。
 この小説で純粋知性科学として扱われている疑似科学ネタは、現実では実験方法に問題のある研究が多く、しかも「ネタが古い」ものもあるのだが*2
 懐疑的な視点からの情報がない上にまるで科学的な研究がされているかのように紹介されている点がいかにもダン・ブラウンらしい。
 例によって小説に紹介されている知識は事実に基づいているとされているので、読者の中には真に受ける人もいるだろう。
 特に日本の場合、日本発の『水からの伝言』が逆輸入されてきたということで盛り上がるのではないだろうか。
 『ロスト・シンボル』は海外で2009年に出版されたため、この本の内容も既にそれなりに知れ渡っている。
 既に海外情報を見ているビリーバー(あるいは懐疑的な人も)のこの小説で扱っているネタには反応している。
 例えばネタバレを含んでいるがDan Brown (ダン・ブラウン)新作 「the Lost Symbol(ロストシンボル)」:ボディー・フィールドは全てを記憶している-人生を幸運に導く法則ではいくつかのトピックが紹介されている。
 前2作同様、知識部分の検証本も日本で出版されるとありがたい。

*1:超能力研究や人間の意識が外部に影響を与えるといった事例が中心。リモートビューイングや人体から出る波動やエネルギーやら、とにかくその種の話題の基本的なものがかなり出ている。

*2:例えば人が死ぬと霊魂が抜けるぶん体重が軽くなるという話(wikipedia:ダンカン・マクドゥーガルの実験)など。